夕暮れも深みを増し、地平線に赤みをわずかに残すこととなった頃、魔王城のある方角から黒い影が現れた。
 幌がかぶった荷車をひく翼竜と、それにのった騎士型の魔物…合わせてドラゴンライダーと呼ばれる魔物が山に降りたち、それに続く形で大きな水瓶をひく虹色に輝く大きな蛇…ユルングがとぐろを巻いて降りてきた。
「お待たせいたしました。アクアリウス様。フェンリの言っていた半魔の子供達はその子たちですね。」
 最初に着陸したドラゴンから降り、膝を折る魔物はアクアリウスの背後にいる子供達に目を留める。
 いつのまにか立ち直っていたアクアリウスは労をねぎらい、年長のリリナを前に出す。
「あぁ。人魚はそこにいる。だいぶ乾いているので城に戻り次第すぐに治療を。」
 ルーフに背負われたディーネを示すと、水瓶から魚人が現れディーネを抱えて水の中に戻る。
不安げなルーフだったが、ディーネが淵から顔を出し話せないもののにこりと笑ったのをみてほっと息を吐いた。
 
「かしこまりました…。あぁ、アクエリアス様。荷馬車でお待ちしております。」
「は?」
 水瓶に上り、中を確認していたアクアリウスはドラゴンライダーの言葉に顔を上げ、何かに気がついたのか思わず足を滑らせ、体をひねりながら地面に落ちると幌の中へと入って行った。
「はぇ…。って前にもこんなことが…。」
「もしかして、例のカスプとか言うのがいたりして。」
 アハハハ、と笑うアリエスとキャンサー。ピスケスとサジタリウスは子供達の荷物を集めるのを手伝いつつ不思議そうに2人を見る。
 
 
「カスプ!」
 驚いたようなアクアリアスの声に思わず顔を見合わせるキャンサー達。
魔王が取りみだすほどの相手…是非見たい。
そう思い、幌を周ろうとした一行だが…
「キャンサーのおじちゃん達!荷物持ち上げるの手伝って!!どうしても手が足りないの!」
 リリナと蛇の少女達が腕をひき、ずるずると小屋へと戻されていく。