「おっおい。無茶すんな…。キャンサーだって力は強いけど殺すようなことはしないだろうし…。」
 フードをかぶっているため、顔色は見えないものの、はらりと垂れた髪の色が黒くなっているのに気がついたアリエスがアクアリウスの肩に手を置く。
 体全体がわずかにふるえているアクアリウスは何かを耐えているようで返事はない。
おいっ、と強く肩をゆするとアリエスの掌の下から光が放たれた。
 驚いて手をひくアリエスの眼の前でアクアリウスは血を吐きだし、苦しげに咳を吐く。
「なっなんだよ…」
 ぼとぼとと血…いや、黒い影を吐きだすアクアリウスの肩で光る何かは離れたアリエスに引かれるように一層強く光る。
 影が光を避けるように震えると、肩から何か…金色の物がつき出てきた。
「けっ剣!?あっ…なんでお前の体からそれが…。」
「ぬ…けっ…邪魔…だっ…。フェン…に聞け…」
 突き出てきたのは剣の柄。
指先が徐々に獣状になっていくアクアリウスに促され、慌ててアリエスは剣を握った。
 光を放ちながら簡単に抜けた剣は思った以上に軽く、初めて手にしたアリエスの手になじむ。
「これ…ずっと探してたのに見つからなかった。なんでお前の体に…っておっおい!大丈夫かよ!?」
 不思議と光り続ける剣は刀身に光が集まったかと思えば鞘に納められる。
なぜ魔王の体から光の剣が現れたのか、そう問いただそうとしてアリエスは顔をこわばらした。
 
 影はいつの間にか全身を覆い、黒く染まった個所からは鱗やら獣の毛やらが生え、ぐるぐると喉を鳴らす音が聞こえる。
「やばいってこのことかよ!?刺せって言われたって…ほっ本当にやばいのか?」
 おろおろとするアリエスの前でアクアリウスから長い昆虫の脚の様なものが生えると、それを自らの体につきたてる。
脚といっても人間の腕ぐらいあるそれは、鋭く魔王の体に突き刺さり、赤い滴を流させる。
 
「刺せっ!」
 
 鋭い声にびくりと肩を震わせるアリエスだが、自分の頬をたたき気合いを入れ直すと地面についている手の甲を地面に縫いとめるように突き刺した。
 黒い渦が吹き出ると、剣に吸い込まれるようにして消え、アクアリウスは徐々に元通りの姿に戻っていく。
「何とか……撤退まで…もった…よぅ…だ…」
 大きく体を揺らしながら荒い息を吐くアクアリウスはそのまま崩れるようにして倒れ込んだ。
剣を引き抜くアリエスは真っ白な顔色の魔王と、とっさに突き立てていたあの光の剣を見比べ何なんだよ、と呟いた。
 ほどなくして戻ってきたフェンリは口に大きな宝石を咥えている。
だが、倒れているアクアリウスに気がつくと思わずそれを落とし、そのそばに獣人型となって膝をつく。
「拘束していた影が制御を失いかけていたから嫌な予感はしていたけど…くそっ…やっぱり俺一人で行って全員殺してくればよかった。だめだ…魔力を失い過ぎている。」
 完全に意識を飛ばしている魔王を抱え、歯軋りする狼男はキャンサーにアクアリウスを持つように言うと自身は狼姿になり、落とした石を咥え直す。
「とっとにかく早くピスケスのところに行こう!!」
 抱えたキャンサーにサジタリウスも眉を寄せ、魔王の白いほほに手を当てる。
「随分衰弱している…。先に行ってピスケスに準備させてくる。」
 たっとかけっていくサジタリウスに3人も続いて行った。