「居た!どこかの地下室にいる。」
 ほどなくして立ち上がったフェンリは逆立っていた毛をなでつけ、一行に居場所を伝えた。
「よかった…じゃあ早く助けにいきましょ!いくら魔物でも人間が欲のために捕まえるのは…私は許せない。」
「知らなかったとはいえ、あのちびっこ達に迷惑かけたしな。よっしゃ行こう!」
 やっぱり良くない、というピスケスにアリエスは頷き、フェンリをいたわるカスプを見る。
「出鼻をくじいて悪いが…先に宿にカスプを連れて行ってもいいか?」
 カスプを抱き上げるアクアリウスは勢いよく飛んでいきそうなアリエスの襟をつかんだ。
思わずどうでもいいだろ、と言いそうになるアリエスだが、万が一人質にでも取られたらこの親ばかが何をするのかわかったもんじゃない。
 足早に近くの宿に入ると借りた部屋にカスプを連れていく。
「カスプ。ここでおとなしくしているんだぞ。」
 いいね、というアクアリウスにカスプは不安げな顔で見つめ返す。
「ねぇ、私残るよ。皆怪我するようなことないでしょ。私魔物に効く魔法はあるけど、人に対しての魔法が弱いから…。」
 項垂れるカスプにピスケスが頭に手を置くと一緒にいてあげる、という。
驚いた様子で顔を上げるアクアリウスだが、わかったと返した。
 アリエスもまた驚くが、死闘するわけじゃないし、戦闘に不向きな白魔導師である彼女がきてもどうにもならないかもしれない。
 わかったと頷くと4人と一匹は外へと飛び出した。
先導するフェンリが向かった先はあの空き地で、てっきりそのまま向かうと思っていた3人は首をかしげる。
 
「フェンリ、そこの二人を連れて向かってくれ。」
 狼姿のままのフェンリにそこの、とキャンサーとサジタリウスを示す。
少し硬い表情で頷くフェンリだが、アリエスは地面に右手を着く魔王と見比べて声を上げる。
「なんでだよ。お前はいかないのかよ。」
「私はここから補助をする。まぁ必然的にお前もここに残ることになるが…。」
 俺行く気だったのに、というアリエスにアクアリウスは首を振るとここにいるという。
「アクアリウス様…無理をしないように。アホ勇者、死にたくなかったらこいつの指示は迷わず必ずやれ。必ずだぞ。」
 どこか心配気なフェンリはアリエスにそう告げると、反論される前に走って行ってしまう。
戸惑うキャンサー達だが、置いていかれては困る。仕方なく走る狼の後を追っていった。
 
 
「お前ら本当に自分勝手だよな…。」
「今からフェンリが見つけた場にいる人間をここから拘束する。が、少々正気を失いやすくなるため、やばいと感じたら何も言わずに刺してくれ。」
「あーはいはい。正気を失ったら剣でさ…はぁ!?」
 やや諦め気味のアリエスはアクアリウスの言葉に生返事をしかけて目を見開いた。
「下手に抵抗されてうっかり人間を殺したくはないだろう?私もできれば人間を殺したくはない。よしっ…座標を確認した。」
「いやいやいや、説明しろって!何勝手に話進めてるんだよ!」
 地面に手をついたままそう告げると、怒るアリエスをよそに大きく息を吐く。
「時間が惜しい。後の説明はフェンリに聞け。私が許可したと言えばいい。…っ!全員捕まえた…。」
 口早に話すアクアリウスだが、どこか苦しげに息を吐いている。
どういういことだ、と思うアリエスだが、地面に広がる影に気が付き背を向けた魔王の後姿を凝視する。
 影はアクアリウスを取り巻き、意思を持っているかのようにうごめく。
一部は地面から浮きあがり、宙を彷徨っていた。
さらによくよくアクアリウスを見れば地面に着いた手を影がさかのぼり、締め上げている。
黒く染まった指先は地面をつかむように力み、爪にひびが入っていく。