一般的に天界の幼稚園は孤児院もかねており、寮付きで大勢の子供たちが住んでいる。
ただ、今は戦争をやっていないので家族がある子供は週に一度家に帰る事が義務付けられており、実家から通う子も少なくはない。
 
「あっ…エリナ先生。」
 すぐ近くに立つ女性にレオは嬉しそうに手を振った。魔鳥に続いて無愛想な男・・・
やっと優しい先生と再会でき、嬉しかったのだ。彼女は淡い緑の髪に黄色のヘアバンドをしているエリナは、にこやかにレオに向かって手を振り返す。
歳は隣に立つ男より見かけ年齢的にも年上の二十代くらい。
見かけが20代というのは大抵百歳前半が実年齢といった所だろう。
「あ〜アキラが行ってくれたんだ。」
「…エリナがいたのか。」
アキラは深く溜息を吐いた。
「えっ?アキラさん知り合い?あっそっかー。同じエリートエージェントだ。」
 ほっとしたようで、アキラのため息にはまったく気がついてはいない。
まだ彼女はエリートエージェントではないのだが、以前言われた冗談をそのまま信じてしまっているレオにエリナは申し訳なさそうな表情をとる。
ふと、何かを思い出したかのように分厚い色紙を出しそれをアキラに突き出した。

 「レオ君。勝手に外でたらだめでしょう。アキラありがとうね。ついでにこの紙二十枚に…」
「断る。またメリッサから頼まれたノルマとかいう奴だろう。言っておくが何度言われても答えはかわらない。」
 レオを置いたあと、素早い動きでその場を離れる。エリナは残念そうに色紙をさげ、わざと膨れてみせた。
「けち〜書いてくれたっていいじゃない減るもんじゃないし。」
「その代わり俺にとって利益も何もない。」
「何を書くんですか?」
2人の会話を聞いていただけだったレオは口を開いた。別に険悪な雰囲気ではないが、なんとなく不穏な空気を読んだのだ。
「俺はそろそろ戻る。レオ…本来ならばもう会わない方が幸せだろうが…またな。」
 途中言葉を濁したがためにレオにもエリナにもほとんど聞き取れなかったが、当の本人はマントを翻し、風のように去っていった。
 去った後には天界ではまず見ることのない黒い羽が一枚。レオは珍しげにそっと手に取るとエリナとともに幼稚園の中に入っていった。
 
 レオはエリナに怒られてからすぐに部屋を飛び出し、親友の所に向かった。
いつも遊ぶところには青毛の子供と赤毛の少年が待っている。
 濃い青の髪で羽の色が淡い青、短い髪がつんつんと立っている少しぐれ気味なジャック。
 真っ赤な髪で羽の色が淡い赤、長髪でいつもポニーテールをしているブラッド。
 レオはこの中では頭のいい子であるが、好奇心旺盛な性格をしているため何かしら騒動を起こしている。
 2人はその話を聞くと会ってみたいと言った。目の色は基本的に羽の色に似ているが、黒い髪や瞳を持つものは天界にはいない。もちろん黒い羽も…。
 
 
 しかし…まさかこの羽との出会いが後に歴史に大きくかかわる事件に自分達が巻き込まれていく予兆とは知らず少年達は黒い羽のことを忘れていった。