「え?お前本当に何やってんだよ。あ、そここけるなよ。」
「おまえじゃないんだ。今夜はやけに湯気の量が多いな・・・。」
「いってぇぇぇ!!」
「・・・。」
「いっ癒し呪文・・・。もっもしくはおねーさんの膝枕・・・」
「馬鹿かお前は。自分で唱えられるだろ。大体、それをメリッサに聞かれてみろ・・・殺されるぞ?」
 アキラの声は静かだが呆れているらしい。
最後の言葉がとどめになったのかもう1人の男は嫌だと連呼する。
「ってか髪の毛長いんだから少しは手入れしろよ!あぁ、ほらここ縺れてる!
ほんとあいつがいないと自分のことは興味がないというか・・・無関心と言うか…。」
「・・・・今お前が転んだ際に握った場所だろ・・・。・・・・・・無理に引くな。抜ける。」
 
「なんか・・アキラさんって不思議な人だよね・・・。」
「確かに・・・。あれ・・2人とももうあがったっぽい。」
 いつのまにか出入りを繰り返していた戸の音が聞こえなくなり静かになる。
腰掛けていた石から降りた3人は再び身体を温め、出口の方へと向かったがやはり誰もいない。
「本当だ。つか誰もいねぇ〜。隣の女性風呂はいるみたいだけど・・・。」
 ふと、背後の方で水がはねる音がし3人は固まる。誰か入っていたのか…。
しかし覚えている限り誰もいないはず。恐る恐る振り返ると華奢な人影が見えた。
ほっとするがその人物が何かを持っていた。頭から伸びているであろうそのシルエット。
シルエットだけでも裕に1・2メートルはあるのではと思うほどの長い髪。
一瞬アキラを思い浮かべるがそれよりも長い人物。ふと、風がよぎり一瞬だけ湯気が飛ぶ。思わず戸に伸ばしていた手が揺れ、大きな音がたった。
「「「!?!?」」」
 3人は慌てて設けられている入り口小屋へと入り、着替えた。
見えたのは・・・漆黒の髪をした青い瞳の(たぶん)女性。
何故男性風呂にいたのかは謎であるし、黒髪の人が天界にいたことにも疑問であるし、背後しか見えなかったために本当に女性かどうかも不明だったが…
音を立ててしまった瞬間、その人物は肩越しに振り返り目が合った。
驚いた3人は急いで温泉から離れたのだった。
「びっくりした・・・。何で・・・・。」
「いつの間に入ったんだよ・・・。あ〜びっくりした。」
「ほっ本当におっ女の人・・じゃないよね??」
 3人はそのままの勢いで指定された木を上り枝に腰を降ろす。
湯煙美人と言うのはああいうものかと初めての遭遇に、3人は心臓をバクバクさせていた。
今度からは出たり入ったりして遊んでいないでさっさと出ようと3人は心に思う。
本当に女性だったら何か・・・恐ろしい気がしたのだった・・・。
 
 
そんないろいろな経験をした夜は・・・いつの間にか眠った3人に朝日を投げかける。
「あれ・・いつの間に寝たんだろ・・・。笛の音が・・聞こえた気がしたけど・・。」
 不思議に思いつつ、レオが下を見るとアキラが焚き火を前にしていた。
呪文を唱えているらしく、長い詠唱が聞こえる。
ふっと火が消えるとそこには3匹の焼き魚が湯気を上げていた。
どうやら3人の朝食を作っていたらしい。
冷たい印象しかなかったアキラの意外な一面を発見し、やはり自分の命の恩人だとレオは嬉しくなった。2人を起こそうとみるが熟睡しているらしく簡単に起きそうではない。
どこか勿体無いと言う思いで再びアキラに目を向ける。
ちょうどアキラは果物を手にしていた。ナイフで切るのかと目を凝らすが、アキラの手には何も握られていない。
ふと、アキラの指先に変化が生じ、果物が綺麗に切り分けられる。
 
「!?」
思わず手が滑り枝を揺らしてしまい、レオは慌てて隠れた。
アキラの手に現れた変化・・・それは魔族でしかありえない爪の伸縮・・・・。
隠れる時には既に短くなっていたが一瞬見えた長い爪。なぜアキラがそんな事ができるのか・・・アキラが強制的に起こしにくるまでレオは悶々と悩み続けていた・・・。