大体平和となった今、そんな重いものを持つ筋力がいるのか?と思い、ジャックは不満な声を上げた。
その声にアキラは背負っていた金龍の剣を地面に突き立てる。
「最終的には45キロになるんだ。15キロくらい軽いだろう。この剣は無駄に金と龍の骨でできているため、100キロ近くある。」
最終的な重さを聞いた3人は青ざめ、さらに軽々と振り回していたアキラの剣の重さを聞き唖然とする。確かに刃は骨のように白い。
だが、見た目は白い鉄で通じそうなほど鋭く頑丈だ。
「龍の骨って・・・龍って1000年位前に絶滅したんじゃ・・。」
ギラリと光る刃を見つつレオは言う。他の2人も龍は絶滅し、骨すら残されていないということを授業で習っていた。
だが、骨が残されていなかったというのにどのようにして剣ができたのか・・・。
「・・・製作者にはレイルッドが会った際に見たはずだが・・・。まぁいい。今から1000年ほど前にディールの骨より作られたそうだ。」
ぼそりと呟くように言うが、3人は何よりもその”ディール”と言う名前に驚く。
決してあり得ないはずの名前。それは・・
「えぇぇ!!!ディールって・・龍神ディール!?」
神話に名を刻む龍の神。伝説では邪神と同一化され、世界を滅ぼそうとし結果的に、
剣士に止めを刺され消滅したという・・・。
「ディールって・・・なんだっけ?ジャック、わかる?」
「お前・・・神話ぐらい読んだだろ。でも・・なんでそんな骨が・・・。」
ブラッドに呆れるジャックは不思議そうに首を傾げる。
答えを聞こうと顔をあげるとアキラはため息をつき首を横に振った。
「俺に聞かれても製作者本人が魂の状態で言っていたのだから嘘ではないだろう。そうだろ?」
アキラの問いに無機質な声が答える。
 
《確カニ我ハディール神ヨリ創ラレタ。》
 
突然柄にあしらわれた金龍の口が開き、同意する。
魔剣とは言われていたがまさか話すとは思っていなかった3人は驚き、後ずさった。
龍の口が閉じるとアキラは地面から剣を引き抜き、再び鞘に納める。
 
「・・・見事にあいつらと正反対でやりづらい。」
溜 息混じりにアキラが呟き、半分ほどしか聞き取れなかった3人は聞き返そうとする。
 だがアキラは答えたくないのか、さっさと森の方へと足運んでしまった。
慌てて3人は武器を持ち上げ、よろよろと追いかける。途中崖のような場所をよじ登ったり(アキラは駆け上がった)、
足がとられる沼地の脇を通り、レオが足を滑らせたりしつつ森奥へと向かう。
森の中ほどまで入り、朝集合したはずの空が茜色に染まり始めた頃・・・
湯気の出ている一角に遭遇した。明らかに人の手が入った露天風呂。
頑丈そうな柵は一寸の隙間も無い。
「訓練中、嫌でも汚れるだろう。傷を癒す効果もあるここで身体を休めるといい。」
 ざっと使い方を説明され、さらに奥へと進む。
見えてきたのは小さな広場になった場所にある大きな楠。
周りには去年のものであろうドングリが多数落ちていた。
「訓練中、ここの枝を主な寝床にする。武器は下でかまわない。明日早朝からはじめる。
今日は先ほどの温泉でも使って休むといい。明日からはほぼ休息は無い・・。夕食は各自でとるように。」
そういい残し、アキラは温泉とは別方向の森奥へと姿を消す。
暗くなった森でも光る髪が見えなくなり、3人は言われたとおりに武器を置き、
夕食にはレオの父キンファーレに言われたとおりパンを用意していたためそれで済ませる。それがすむと先ほどの温泉へと足を運んだ。
今は誰も使用していないらしく、ルール通りに使用中の札をかけ中へと入った。
まだ少し早い時刻だったが、ゆっくりと浸かっている間に一番星がきらめき始める。
仄々とした雰囲気を味わい、見知らぬほかの訓練生も若干入る。
湯気が激しいために誰が入ったかなど5メートル先はほとんど見ない。
「あぁ、アキラか。あ、うんそうだ。」 
担当エージェントと思われる声がし、3人は振り返る。しかし・・やはり見えない。
複数の影があるのはわかるが・・・独特の小さな影は見当たらず、
話している相手の声がでかいのか、アキラの声は全く聞こえない。
やがて近づいてきたのか、小さくだがアキラの声が聞こえはじめる。