「どんな起こし方だよ!」
「レッレオ・・・癒しの呪文・・・。」
 痛そうに腰をさすり、頭から枝やら葉やらを取り除くブラッドに呪文を唱え、痛みを癒しているレオにジャックまでもが頼む。
「僕そこまで魔力多くないからできないよ〜。ジャックは元気そうだから後!」
「起きないほうが悪い。あれくらいの高さ、ほとんどダメージは無いだろ・・。」
 木から叩き落とした本人は呆れたようにリンゴを齧る。
しかし下草が生えているとはいえ、木の枝から落ちたのだ。驚きもあいまって痛いに決まっている。
「朝食後はこの森の中心にある神殿に向かう。最初はある程度の重量を持っての飛行訓練だ。早く準備をしろ。」
 3人が準備し終わると森奥へと進む。
途中険しい道などを選んで通っているようで訓練は既に始まっていた。
 
 
じわりじわりと初夏の日差しが木漏れ日となって3人を焼く。
朝からあるいて既に昼食の時間だ。休憩を取る風でもなく、黙々と一定のスピードで純白の髪はわずか先に揺れている。
「あっあの・・・お昼とかは・・・。」
 朝のことは二人には言っていないが、昨日から見るアキラの行動に不安げな声で小さく聞く。
当然アキラには聞こえていないようで歩調は相変わらずだった。
「アキラ!昼の休憩無いのかよ!」
朝、叩き起こされた(落とされた)ジャックはアキラに敬語を使うのをやめたらしい。
その声がようやく届いたのか、足を止め振り返る。そして空を仰ぎ、あぁと納得した声を上げた。
「そんな時刻か・・・。少し待て。この先100mほどに行けば休憩にする。」
 その言葉にジャックは不服そうに了承した。
「そんな時刻って・・・お腹・・・すかないんですか?」
 ブラッドが聞くと肯定する返事が返ってくる。
そんなに朝食べただろうかと考えるが思いつくのはリンゴを齧る姿のみ。
しかも1つ。追求するのも躊躇われ、再び歩き出したアキラについていく。
言っていたとおり進んだ先には小川が流れ、休憩するのはもってこいの場所であった。
「午後は今朝言ったとおり飛行訓練に入る。昼食は此方で用意する。各自充分に休むように。」
 そういい残し、アキラは消える。
「ねぇねぇ、一瞬で移動できる呪文なんてあったっけ?」
 首を傾げるレオにジャックは
「レオが知らないことが俺らにわかるわけねぇじゃん。なぁブラッド。まぁお前が知るわきゃねぇよな。俺より成績悪いもん。」
「あぁ、瞬間移動呪文(インパスト)だろ?古代呪文らしいからおれらは使えないけど・・・。親父が言ってた。
だから・・訓練中になんかすると・・・すぐばれて捕まるって。」
レイルッドはよほどのことをしていたのか、なぜかその手の情報が多いようだ。
そして、3人の仲で成績のよいレオが知らないことをブラッドが知っていたことでジャックは驚く。
「なぁ、せっかくだしアキラが戻ってくるまで川に足でもつけない?こんないい天気なんだし・・・な!」
ブラッドに提案され、3人は並んで川辺に座る。疲れた足を冷やすに丁度よい水温。
そのまま3人は水遊びを始め、アキラが戻る頃には頭から水が滴り落ちていた。
 
 
「各々、翼を出し俺の後について来い。」
 そういわれ、レオは薄い黄色、ジャックは薄い青色、ブラッドは薄い赤色の翼を出し上空へと舞い上がった。
普段あまり飛びなれていないのと武器のおかげで安定し難く高度もそれほど上がらない。必死に羽ばたくジャックはふと、上空で微動だにしないアキラを見た。
「ずりぃ!なんで・・俺達は・・飛んでんのに・・・浮いてんだよ!」
 その背に翼は無かった。
「あぁ、今は上空に上がり安定するのを待っているだけだ。だが、このまま俺が呪文で飛んでいても不満だろう。この先に木々が開け、神殿が建つ場所がある。
俺は下のルートを行くが3人はそのまま空から神殿前に行け。3人のうち誰でも到着(つけ)ば訓練量を減らしてやる。俺が先に着いた場合は武器の重みを毎日に合わせ、3キロ追加する。」
アキラの示す方向に石の屋根が小さく見え、3人は意気込む。
下・・・つまり森はそうやすやすといけそうにはない。自分たちに勝機があると目を輝かせた。そしてアキラからスタートの合図が出る。今まで安定していなかったのが嘘のように3人は飛び出した。
「俺達ってやればできんじゃん!うっし!アキラも見えないし早く行こうぜ!!」
 スピードを上げ、笑うジャック。レオもやればこんなに速くなるんだと自身に驚いていた。
「・・・・なぁレオ。おれの目の錯覚じゃなければ・・・下の木が一直線に揺れている気が・・・。」
 ブラッドの言葉に下を見ればやや先の方に向かって木々が若干揺れている。
「「なっ!?」」
尋常でないスピードだがよくよくアキラの手元を見れば何か書類を書いている。
「やべ!早く行こうぜ!!!」
放心しそうになり、3人は慌てて限界までスピードを上げた。