「・・・遅い。」
ジャックはいらいらと森を睨んでいた。先を走っていたはずのアキラの姿はない。
待っていると言ってもまだ30分も経っていないが遅すぎる。
「なにかあったのかな・・・。」
レオは心配げに辺りを見回す。ふと、茂みが揺れ1人の男性が姿を現した。
「いたいた。レオ君にジャック君、ブラッド君だね。
私はロロイ=ジェンクと言うものだ。君たちの監督であるアキラなんだけど・・・
この先の海岸で魔獣騒動が出てね・・・そろそろ戻るとは思うんだけど・・あ、なんだ…
お・・私が来ることもなかったか。」
にこやかに話しかけるロロイの言葉に3人は少なからず驚いた表情になった。
ココから海岸までどれほどの距離がある事か・・・。不意に空を見上げたロロイが呟く。
つられて上を見上げると翼を広げた姿があった。逆光で羽の色は全くわからない。
次の瞬間急降下した衝撃により土ぼこりが舞い、晴れた頃にはアキラの背に羽はなかった。
「まったく。あれしきの魔獣・・・・。」
「お疲れさ・・・未成年いるんだから手当てぐらい受けてきたほうがいいぞ?」
大きくため息をつくロロイに、アキラは不快そうに血を拭う。
その光景にレオは貧血を起こしかけ、呆れるロロイが額の傷に包帯を巻く。
「キフィーさんにくれぐれもと言われてきたんだから。あ〜あ。絶対次の定期検査で強制入院させられっぞ?」
「許可は取ってある。それよりも魔獣の核だ。再生は一週間ほどできないだろうが充分に気をつけて検査しろ。・・・包帯は大げさだと思うが・・・」
「へいへい。でもさ、どっかの親ばかの子煩悩が血相を変えているのを観て育ったからなぁ・・。未だに親父たちの酒の肴になってるし。んじゃ、頑張れよ〜。」
拳ほどの石を手渡すとロロイは大急ぎで帰っていった。
その背を、眉をひそめたアキラが見送る。
「あ、アキラさん。・・・大丈夫ですか?まだ血が・・・。」
無言のまま神殿に入ろうとする背中を呼びとめた。新たに流れた筋を拭うと苦い顔になる。
「あぁ。訓練中だが水属性の魔魚を退治しに行ったはずの4人が海に引き込まれかけ、
それを叩ききった際に跳ね飛ばされた。その時の傷だろう。まったく・・・あれくらい対処できなくてどうする・・・。」
不快気なまま言うと3人についてくるようにと合図し、奥へと消えていく。
「気がついていると思うが、ここは代々の天王一族が眠る墓所だ。そして・・・これが魔王を夫にし・・・バケモノをこの世に生んだ・・天王ゴークの一人娘。マリア=ゴーク=カラティンの像だ。」
アキラが足を止めた目の前には微笑を浮かべた女性の像が他の像と同じく石壇の上に立っていた。
長い戦争に終止符を打った少年の母。緩やかなウェーブの髪に優しげな笑み。
「バケモノだなんて・・・。だって戦争を終わらせたんなら・・・。」
「ブラッド。お前馬鹿だなぁ。考えてみろよ。力ずくで戦争を終わりにして、
何十万の人が命を落としたんだぞ!? んな魔法使える奴なんて充分バケモンじゃん!」
ブラッドに対し、ジャックはそう言い捨てる。
「ま、だからこそ今の平和な時代になったから感謝しているけど・・・な。」
まだ完全に平和とはいえないが戦争はもう無い。
ジャックにとっては平和になるならば完全な平和だったらよかったと思っていた。
訓練する必要もないほど平和ならば・・・両親は死ななかったと。
「そうだな・・・。」
アキラの声は静かな声だったが、どこか悲しげな響きが含まれていた。
ふと、突然像が横にすべり石壇が下がる。
← →
↓
|