現れた階段からはやや紫がかった髪と髭を持つ・・・天王ゴークが姿を現した。
「おお、アキラか。そうか今は訓練期間中じゃな。どおりで通常以上の書類が回ってくるわけじゃな・・・。その子達が訓練生じゃな。皆、親御に良く似ておるの。」
「気配がしたので待機していたが・・・どうしてここに?」
そんな3人に気がつかないのかアキラの口調は淡々と普段と変わらない様子で溜息をつく。
「相変わらず仕事中じゃととことん無愛想じゃな・・・。一度くらい笑顔の1つでも見せてくれんのかの?」
「生憎、俺の中には喜怒哀楽のうち正の表情が欠落しているため、意に沿う行動は取れません。大体普段と大差ないと思いますが・・・。」
「まったく・・・可愛げがないというか・・・。ま、黙っていれば何とやらじゃな。」
 天王ゴークは楽しげにアキラの頭を撫で付ける。
親しげな2人の様子に呆然とする3人だが、当の本人は不愉快そうに手を払う。
なおもしつこく頭を撫でられ、アキラの機嫌はさらに下がった。
 
「・・・殴っていいですか?」
 天王相手に物騒な事を言うが本人は気にしていない様子で背を向け出口へと向かう。
「ここで話すのもなんじゃろ。訓練が終わったら顔見せに・・じゃなくて泊まりに着なさい。」
「お断りします。・・・もうじき雨が降る。早く戻った方がいい。」
 アキラの言葉に天王ゴークはそうかと頷くと慌ててお辞儀する3人の前を通り過ぎ、帰っていった。残された3人はマリアの像を見つめるアキラをまじまじと見た。
天界で一番偉い天王と親しげなエリートエージェント。まるで祖父と孫のような2人。
しかし、ゴークの孫はあの黒髪で背の高い男性・・・戦争を終わらせた人物しかいない。それだけは変えようもないことだ。ならば・・この2人は一体・・・。
「夕立が来る。止むまで休憩時間とする。よく翼の筋肉をほぐしておくといい。」
 マントを払い入り口の石段に腰掛ける。ほどなくして夕立の激しい雨が降り、雨漏れの音が神殿内に響く。
 
「ひゃっ!つめてぇ〜〜〜〜!!!」
「ジャック大丈夫?雨・・すごいね・・。」
ザァザァと降りしきる雨音は石造りの神殿の屋根を通して伝わる。
3人の話し声と雨音のみが響く中、突然電子音が鳴り響いた。
「どうしました。・・・・聞こえん。・・・・・一体何重仕事を俺に重ねるつもりです?」
電子音はアキラの持つ通信機だったらしく受け答えしながら雨の降る外へと歩み出る。
軽く手を振るとアキラの周辺のみ雨が遮られた。
「すげぇ・・・今呪文の声聞こえた!?」
「忙しいんだね・・。」
 
 
「・・・・・まったく。いい加減歳なのではないですか。・・・遅くなりますよ?
わかりま・・・諦めるという言葉を知ってるか?・・・・・・やはりいっぺん殴った方がいい・・な!」
 ぶつっ・・と音がしそうなほどの勢いでアキラは電話を切る。
そのまま引き返すと3人を手招き、マリアの像の前に立った。
「天王様が忘れ物だそうだ。いい機会だ。ついでに入るといい。」
 既に閉じた像に向かうと手を石段につけた。
「イアムーカアキラ。メイェニキプリスマリアヴニス。ビッドプフ。」
そう呪文のように唱え手を離すとスルスルと像が動き先ほどと同じ階段が現れる。
「中は暗い。明かりぐらい自分で出せるだろう。それと頭に注意して歩け。そこまで急な階段ではないと思うが・・・足元が不安な場合は急がなくていい。」
 アキラはそう指示を出すと片手一杯のみの光を出し階段を降りていく。
3人もそれぞれ大きさも明度も違うが光を出すと恐る恐る歩き出した。