やがて洞窟内をハーブに似た匂いが漂い、いくつか呪文を唱える声が聞こえ透明に近い緑色の液体が入った小瓶を差し出す。
「野草になっている薬草を使った。味の方は・・飲んだ感想によれば渋柿と苦瓜を足して割った味だそうだ。」
 ジャックは渡された小瓶と片付けをするアキラを交互に見る。
レオもその小瓶と片付けられている薬草を見比べ感嘆の声をもらした。
腹を括ったジャックは一気に飲んだが・・よほどの味だったのか涙目になり咽こんだ。
「良薬口に苦しと言うだろう。母から教わったものだ。副作用はない。」
 恨めし気なジャックにアキラはこともなし気に言うとレオから空になった瓶を受け取る。
その際、手が触れレオは慌てて腕を引いた。
「アキラさんの手・・・すっごく冷たい・・・。」
 瓶はアキラが素早く回収したため手元にはないが、一瞬触れてしまったアキラの指にレオは驚く。3人は恐る恐るアキラの腕に確かめるように触れる。
アキラの腕は・・
氷のように冷たかった。
 
「俺は手足の体温と言うものが必要最低限しかない。わずかな熱を測る場合は・・
額でしかはかれない。」
 だからさきほどは額を通して体温を測ったのだといわれ、納得する。
思い返せばその額でさえ冷たかったとジャックは思う。
「・・・お前達の手は・・暖かいんだろうな。俺は20年前、それを教えてくれた奴を深い眠りにつかせてしまった。それ以来わからなくなった。」
 やはり呟くようにいうと3人の手から伝わる熱を感じるためかアキラは目をつぶり、ため息をついた。
ここ数日でみた様子とはまったく違うアキラに3人は戸惑う。
だが声をかけるより先にアキラは手を振り払うように立ち上がり、雨の上がった外へとでた。
 
「ロロイ、どうした?」
「あ、本当によく気がつくなぁ・・分析資料。なぁアキラ・・・この匂いって・・風邪か?」
 草陰から出てきたのはロロイだ。
アキラはロロイから書類の束を受け取るとその場で読み始め、ロロイは3人のところに行き腰を降ろす。横になっているジャックに問い、哀れむような目で見た。
「あれはなぁ・・・よく効くけど味がなぁ・・・。苦瓜と渋柿を足して2倍にした感じだよな。」
 思い出したのか顔をしかめ首を振る。飲んだのはこの人かとジャック同士をみる目で見るが・・・若干味の感想が違う。
書類に目を通し終えたのかアキラが戻りロロイへと渡した。
「お前のは改良前だろう。今は苦瓜と渋柿を足して割った感じらしい。」
「んなぁ!?でたよこの親ばか!!!ガンに飲ませる前に俺に飲ませたのってそれ!?」
「誰が親ばかだ。大体お前の方が熱が高かったんだ。先に飲ませて何が悪い。」
「まぁあいつは微熱程度だったけど・・・味見してからにしてくれよ・・まったく。あ〜この匂い嗅いでいるだけで思い出す!!んじゃあな!」
 鉄砲玉のように飛び出すロロイにアキラは呆れたようなため息をつく。
「・・・アキラさんって・・・お子さんがいるんですか?」
レオが首をかしげ問うとアキラは首を横にふった。
「ガンは・・・俺の子ではない。」
それ以上は聞かないでくれと言うとジャックに眠りの呪文をかけ、他の2人にも呪文をかける。
 
 
目が覚めるとアキラは入り口付近に座り、
あのペンダントをあけ、眺めていた。
「何でおれ達まで・・。」
「他のすることのないときは寝ていたほうがいい。」
ぶつぶつと起き上がるブラッドとレオ。問題のジャックも目を覚ますと熱がないことに驚いていた。それを見たアキラはペンダントを閉じ、出るようにと促す。
「飲んで寝れば治る。寝床に戻るぞ。」
頭痛もなくなり、ほぼ完全に風邪が完治したジャックと共に4人は楠のある方角へと向かった。