もっとも魔獣と距離が近いといわれた3人はメリッサの結界に入り、
剣を構えるアキラを見守った。これで彼が戦うのをみるのは3人そろって2回目だ。
レオは小さい頃ゾルクを倒す姿が丁度見えず、見たことはない。
「あちらの方へ誘導する。隙を見て3人を連れて避難してくれ。」
「アキラはどうするの?最近体調がよくないって聞いたけど・・・。」
 女性幹部に指示をだすアキラにメリッサは心配げに聞く。
特に体調が悪いというそぶりがなかったため気付かなかった3人は驚きと同時に心配にもなる。
「以前よりは・・確かに身体能力は下がり、万全な体調と言うわけではないがまだ大丈夫・・・。」
 手を握ったり開いたりと動かし剣を抜く。
いまいち腑に落ちない表情のメリッサは頷くと結界をより強くしアキラはわざと音を鳴らしながら遠くへと走り去っていった。
 
「いたぞ!!」
「左右に回りこめ!浜辺に追い詰める!!!」
「最全期よりは呪文が使えないはずだ!無駄玉を増やせ!」
 数十メートル先を巨大な何かが疾走し、しわがれた声やらが聞こえ遠ざかっていく。
時折電撃呪文の光が見え奴らの言うとおりに呪文を使うアキラがいるようだ。
狂気じみた歓声が聞こえ、3人は居てもたってもいらずメリッサは苦々しい顔になる。
 次の瞬間突風と共に紅蓮の炎がよぎった。すぐさま消えた炎にメリッサは舌打ちをする。
「うわ〜・・・応援呼んだのかしら・・・。さぁ3人とも私の合図で走るのよ。1・・・2・・」
「逃がしはしないよ。そこにいる子らは人質として預からしてもらおう。」
 背後から聞こえる声にメリッサが振り向くと同時に結界が破られ、応戦するまもなく吹き飛ばされる。3人はあっという間に縛られ魔族と共に魔獣に乗せられた。
 
 
 向かった先は怪我を負った魔族が倒れ、魔獣が一匹砂と化している浜辺。
「アキラ!聞こえるか!お前の大事な子らは私が捕らえた。」
 その言葉に反応したのか、アキラは顔を上げる。
ローブは焼け焦げ、数箇所怪我を負いつつ軽やかに魔獣の攻撃を避けていく。
しかし3人を捕らえた魔族が合図すると一時的に魔族も魔獣も下がり、アキラは剣を地に着いた。
「人質・・か。なるほど。最近邪が濃くなって外道になってきたようだな破黒。これ以上何をとるというんだ。」
「貴様のその忌まわしい運命と魂・・そして時の力だ。」
 魔族がフードを外すとその下からは若い女性の顔が出てきた。
赤錆色の短い髪…。
魔界で最も恐れられている・・・破黒と名乗る女性。
3人も授業で聞いた事はあるほどの有名な・・出会ってはいけない人物。
その破黒が今3人を捕らえ、アキラと対話している。
「この忌まわしい運命の鎖を解くと言うのならば歓迎するが・・・俺の使命を変わりに果たしてくれると言う事か破黒。」
「は、どうして自分で自分を消さねばならん。」
「ならできない相談だ。一体この会話を何度繰り返せば気が済むんだ。少しは学習してもらいたいところだな。」
 淡々と言葉をかえすアキラに破黒は笑う。女性とは若干違和感のある低い声が響く。
「まぁいい。どうせここに来たのも余興のため。私とて貴様の持ちかけた契約を破る気はない。安心しろ・・たかが泥人形だ。亡者の・・な。」
破黒が合図を送るとアキラを取り囲む砂に変化が現れ、泥にまみれた人が姿を現す。
各々に持った獲物を振り上げ切りかかる。