鈍い音で仕留めたのは誰もいない砂。
そして輪になったそれらは血を吹き出し倒れる。
だが切った本人であるアキラはその光景を見た途端顔を青白くさせ、襲い来る人形を剣で受け止めうち流す。
「どうした。アキラ。今更・・血を流す人形ですら斬れなくなったとでも言うのか。
覚えているぞ・・・200年前の終戦を。さて・・貴様はあの暴走で一体どれだけの兵の命を奪ったかな?
最強にして両王家の血が生み出した災厄の異端児・・・アキラ=ヴァルビス。」
嘲る様な声はアキラにも届いているらしく、殺気のこもった視線が投げかけられる。
跳ね飛ばしても尚襲い掛かる泥人形はいつの間にか千を越えるほどとなり、
砂浜へと押し倒され斬撃を辛うじてよける。そんな切羽詰った中、3人は破黒の言葉に耳を疑った。
 
天王とのやり取り・・・まるで祖父と孫のような親密な関係。
自分らの父より年上で・・200歳以上。
バケモノだと自ら言い放った・・。
「気に入らなかったのかい?なら・・・魔王と言うのもつけてやろうか?」
「俺には生まれながらにして王位継承権はないということを忘れたのか。
俺はアキラ=ノウライ・・・王を太陽とするならば俺は月光。闇を暴く冷酷の光だ!!」
「貴様のような呪われた赤い月の光など誰が必要とするものか!!大体そのような無様な姿で何ができる。」
「悪いな・・・本調子でないおかげで貴様を退屈にしすぎたようだな・・。しかたがない。」
 泥人形達が一斉にアキラ目掛けて剣を振り下ろす。
突き刺さる寸前、突然紅蓮の炎が吹き上がり泥人形達を灰にする。
「あっぶねぇ!!!こいつバカか!?まじほんと洒落になんねぇ!俺やだよ?
こいつの身体んなかで死ぬとか。まじありえないって。せっかくなんだし自分の身体の中で死にたいわ!」
 砂埃が消え、立ち上がったのは藍色のような濡れ羽色の肩までの長髪をし、
両頬に牙のような刺青がある藍色の目の青年。服は今までアキラが着ていた白いローブ。
「グラントか・・・たかが鍛冶屋が我々の戦いに出てくるとは・・場違いにもほどがあるぞ。」
「だよなぁ〜・・・っておい!たかが鍛冶屋ってなんよ。かの有名な剣を作り上げた名工ですぞ。つうか鍛冶屋なめたらいかんでしょ〜。」
 
 馬鹿にした口調の破黒に突っ込みを入れたグラントといわれた青年はその場に落ちたアキラの剣を拾い上げ、背にしまう。
そして両手の爪を伸ばし、身を低く構えた。 「鍛冶場の馬鹿力・・なんつって。」
一瞬にして一番近くにいる泥人形が砂となって消え去る。
全く動いた様子はないが足元の砂が舞う。
「すげぇ・・」
 思わずジャックが感嘆の声を上げた。
早すぎる動きに待機している魔族達も目を見張っている。
「こいつなぁ・・まともに動けばこれ以上だって言うのに・・・絶対やらないからなぁ・・・。
ま、あいつの精神状態も落ち着いてきたっぽいし・・・。あんまさぁ・・・
こいつの精神に関わることして欲しくないんだけど。じゃないとさっきみたいに暴走しかけるからさぁ。」
「ほぅ・・もう一度”心”とやらを崩せば・・・冷酷な龍の姿を見ることが出来るのかな?
もとより余興は終盤だ。こいつらも既に用済み・・・。」
 ぞっとする寒気に3人は身を強張らせる。恐る恐る振り向けば振り下ろされる寸前の長い爪。
一瞬にして目の前が闇に包まれ鋭い爆発音が聞こえた。
 斬激はなく、急に光が視界を覆った。