「お静かに。続きましてエージェントの魔力開発課・・・」
「おれ、ばあちゃんに聞いた事があるんだけど・・・エリートエージェントの中でも№付って位が高いって。」
「そうなの?ブラッド。・・・何人くらい居るんだろう?」
「あぁ、俺も聞いたことあるぜ。でも・・幾らなんでも若くね?」
「う~~ん・・・。年取りにくい体質とか・・・実際に若いとか。」
その後は講義が始まったため一旦思考を切り替える。
ものの数十分でジャックは睡魔に飲まれていった。
終盤に差し掛かり、ようやくアキラの講義になる。その途端、水を打ったように囁き声も何もかもが静まる。眠っていた生徒も目を覚まし一心に耳を傾ける。
この若いエリートエージェントは一体どのような人物なのか・・。アキラは定位置に着くと細縁の眼鏡をかけ書類を淡々と読み進めた。物音ひとつ無い会場に静かな声が響く。
「魔生物は魚類・昆虫類・爬虫類・両生類・鳥類に分かれ、それぞれ陸海空に分かれている。属性は基本魔法と同じ火・水・風・土・木。及び応用魔法と同じ冥・氷・雷・石・癒等多種多彩ではあるが、見た目からほぼ判断できる。
形質はゼリー状のスライム系から金剛石並みの強度を持つ甲羅を持ったものなどが居る。またガス状のものも居るため、常にコアから発せられる微量な魔力周波を感知するレーダーを確認の後武装を解くように。
魔生物に内蔵された核を破壊すれば機能を停止し、生命活動そのものが停止する。質問は?」
アキラの切れ長の目が会場をざっと見渡す。ふと、一点に目を留めると軽く片腕を上げた。指の出た黒いグローブの手をわずかに曲げ、開く。
「うわっ!!」
機械の壊れる音と共に学年一ガラの悪い生徒らの驚きの声。
「てめぇなにすんだよ!!」
どうやら講義を聴かず、音楽をイヤホンで聴いていたらしい。壊れた再生装置を手に怒鳴り声を上げる。その生徒にアキラただ静かに問いかける。
「この場は何のためにあると思う?」
「んなぐっだらねぇ講義なんか聴いてられっかよ。戦争の時代じゃあるめぇしまぁ実践訓練なんか面白そうだけどよ。あ~あ。ト゛派手に魔法使ってみてぇなぁ。なんで戦争おわ・・」
それ以上その生徒は続ける事ができなくなった。壇上にはすでにアキラはいない。ふわりと前の座席の背に立つ彼からは重さと言うものが感じられず周りにいる誰もが驚いた。
ガラの悪い生徒は脅えたように口の隙間に差し込まれた剣先を凝視する。アキラの背丈ほどもある大剣を突きつけられたあげく、見えない魔力による圧力に息も絶え絶えになるがそれ以上にその眼に映るのは何色でもない虚無の瞳に更なる恐れが生まれる。
「あぁ・・・そうだ。お前の祖父ガロにはずいぶん世話をかけたからな・・・。これでチャラにしてもらおう。釣りは出るが・・・まぁいい。」
アキラはふっと消えると音もなく壇上へと移動していた。途端に身体にかけられた圧力が消え、その生徒は恐怖と安堵で失神してしまった。慌てて駆けつける教師達。
「それほど争いたいならば・・地獄を見たいのならばいつでも見せてやる。もっとも・・・三晩は悪夢でいやと言うほど味わうと思うがな。」
「アキラ。」
天王の声にアキラは若干怒気を抑えるもののそのまま退席してしまった。
気まずい雰囲気が漂い、司会を行なっていた教員もどうしたものかとエージェントたちに指示を仰いでいるが、まだ若い面持ちのエージェントたちはオロオロとするばかりで役に立たない。そんな中、天王ゴークがやれやれとばかりに立ち上がりかける。
だが、鋭い爆発音と地揺れ、そして獣の声に会場が騒然となった。
天井部に何かが当たる音がし、照明や壁が落ちる。魔法を使うことも忘れ、立ち尽くす生徒と教員。誰もが当たると覚悟し、頭をかばった。
しかしいつまで経っても瓦礫が落ちてこず、恐る恐る目を開き、目の前の瓦礫に腰を抜かした。
「何をしている!!死にたいのか!!!」
怒鳴り声と共に動かない瓦礫が壁際へ追いやられる。同時に何か大きなものが転がり、女子生徒から悲鳴が上がる。
壇上には駝鳥ほどの大きさの巨大な蜂が数匹転がっていた。そして客席に落ちる重々しい音。
それは魔獣の亀のような頭部。しかしまだ外には魔獣の叫び声があがり、複数居た事がわかる。
「さっさと避難させろ!!」
再びの怒鳴り声にエージェントたちが一斉に動き出す。
「きゃぁっ!!」
女子生徒の悲鳴に何かが吹き飛ばされる音。
まさかと思い思わず3人は振り返ったが、女子生徒の代わりに吹き飛ばされたのは大剣で身を守るアキラであった。忌々しげに血を吐き捨てると、象ほどもある巨体を素足で蹴り飛ばす。
タートルスコーピオンと呼ばれる何百キロもある亀形の魔獣がいとも簡単に吹き飛ばされ、仰向けになる。しかし、すぐさま無数に生える触手のような手で起き上がった。尾のある場所には蠍のような鋭い針がつき、滴る毒が瓦礫を溶かす。
← →
↓
|