初めて見る実戦に足がとまる3人。
不意に身体が軽くなったかと思えば見る見る会場が遠ざかってゆく。そして今まで居た場所にタートルスコーピオンの尾が刺さっていた。
「ぼやぼやするな。」
 3人を片手で掴んだアキラは会場外へと運ぶと、再び剣を構え魔獣の下へと駆け寄る。
どうやら再び一太刀入れられていたらしく、深手を負った魔獣が痛みに暴れだした。
分厚い甲羅の上にたつアキラは躊躇無くその甲羅へと剣をつきたてる。吹き出す返り血。
わずかに甲羅の中央が光り、核の居場所が見えたがすぐさま魔獣は大量の砂を残して消滅した。
  
 
「ご苦労じゃったな。アキラ。」
 戻ってきたアキラに労いの言葉を述べるゴーク。そしてその場に居たはずのエージェントたちが一斉に頭を下げる。
彼らは呪文を使うこともできず、生徒達を避難させ、自分たちまでも避難してしまっていた。当然許される事ではないだろう。
「申し訳ございません!」
「何故俺の忠告に従わなかった。何故避難指示が遅れた。」
 アキラの静かな声にどう見ても年上にしか見えないエージェントたちは肩をびくりと揺らす。
「バルバス。お前は魔生物に対しての前線指揮だったな。どういうわけだ?」
 このエージェントメンバーの中で戦闘員と思われる男は顔を青ざめた。
一応は最後まで会場にいたが、やはりアキラに加勢する余裕が無かった。
「そっそれは・・まさかこんなところに・・・。」
「だから俺はこの場に居たくなかったんだ。ここで足止めされていなければ早くに気がついたものを。毎年毎年・・・何のために俺がナイトヒルにいると思っているんだ!!」
 言葉を繋ごうとするバルバスを冷たく遮る。
 
「アキラ。今回の事はわしも非がある。すまな「謝るな!」」
 ゴークが言葉を続けようとするとアキラは目を見開き、声を張り上げる。
「貴方が謝るべき事ではない!貴方は天界の王だ!己がしたことの責任を最後まで取れ!
自分が謝った事をしたと気付いた時でも毅然とした態度を取れ!貴方が俺にそう・・・・・・もういい。」
 アキラは諦めた様にして大きくため息をつくと呆然としている3人の前を通る。
ふと、レオはアキラの足元を見た。右足を引きずっている。
「あ、あの!!」
「おい、レオ!?」
 勇気を出して声をかけるとアキラは3人に気がついたのか顔を上げる。
「まっまた助けてもらって・・・ありがとうございました!!」
「確かレオ=ホルピス=ミラスだったな。10年・・・か。早いものだな。」
 覚えていたようでアキラはやや雰囲気を和らげる。他の2人にも気がついたようでアキラは2人に目を移す。
「ぶっブラッド=ウィル=ジェームズと言います!」
「俺・・じゃなくて僕はジャッ「ジャック=K=マルス。大きくなったな。」」
 ふっとアキラは笑うようなため息をついたが、表情に変化は無い。
ジャックはまさか自分の名前を知っているとは思わず、驚く。彼の両親は幼い頃亡くなった上に肉親も居ない。ましてやレオのように幼い頃あったのであれば覚えている。
しかし、まったく記憶には無い。
 
「何で俺のこと・・・。」
「・・・・」
 その言葉にアキラはしまったとばかりに視線をそらす。
「あっ!アキラさん足に怪我・・・。」
「あぁ。尾が掠めたからな。怪我が無いのならば早く寮へ帰れ。じゃあな。」
 ジャックの言葉に返答は無く、アキラは音もなく消えてしまった。
「なんなんだよ・・・。」
「ん?何だ?あれ。」
 ブラッドが何か光るものを拾い上げる。それは金のペンダントであった。
「綺麗なペンダントだね・・・。アキラさんのかな?」
「さぁ・・あ。これ開けられるようになってる。」
 ブラッドが小さなつまみを押すと小さな音がし、ペンダントが開く。
しかし、中を見ることが出来なかった。覗き込んでいたペンダントが突然消え、3人は驚く。
「やっぱりここだったか。」
 まだ足から血を流している状態のままアキラは無造作にポケットの中へと入れる。
「ごっごめんなさい!!誰のかなって・・・。」
「別に。あぁ、ついでだ。ブラッド。お前の祖父、ウィルに期間が過ぎていると伝えておいてくれ。それで充分伝わるはずだ。」
「なっなんでおれにじいちゃんの・・・」
 またしても問い返された本人は音もなく消えていなくなっていた。
「なんなんだよあいつ・・・。」
「さぁ・・・。ブラッドのおじいちゃんとも知り合いみたいだしね・・・。」
見た目から実年齢がまったく分からないアキラに対し、3人はしばらくその場で考えていた。