「終戦後あいつは天界へと来た。魔王代理としてだ。あの忌々しいバケモノは・・」
当時を思い出したのか、罵倒しようとした男は背後に忍び寄っていた背の高い全身を黒いローブで覆い隠した別の者に首をつかまれ、目を見開く。
「時間だ。」
背の高い男は無造作につかんでいた男を放り投げる。
投げられた男は慌てて逃げるように立ち去り、司会の女性が慌てて駆け寄った。
「えっ!?あ、まだ時間じゃ・・・。」
「この後書類見なきゃいけなくなったんだ。時間がない。」
背の高い男の顔はフードに隠れ全く見えない。まるで死神のようだと誰もが息を呑む。
「俺が魔王ダモスの息子だ。毎年毎年懲りないやつがいるからな・・・早くに来た。母マリアは俺をかばい何時覚めるのかわからない封印状態に置かれた。
父ダモスにおいても同じく封印状態となり眠っている。説明があったようにすべての元凶は人間が我々に脅え、迫害した事から始まる。
そして守る天界と復讐をするという魔界。その二つが対立をした。元来魔族は非交戦的で温厚な種族だ。それが怒るくらいなのだからよほどの事情があったのだろう。あとは歴史で習ったとおりだ。
あの馬鹿のように改善をしろと言うのもいるが・・・くだらない。運命と事実は変え様のないものだ。捻じ曲げたところで未来も過去も変わらない。」
男の声は淡々としていて静かに響く。
「俺は感情のままに力を暴走し、多くの命を奪い同時に甦らせた。これはあってはならない暴走であり、得てはいけない力だ。
そのため、ここ天界ではずいぶんな目にあった。怨んではいないが流石に200年たった今でも尚後ろを狙われると言うのは気分がいいものではない。
そろそろ戦争を忘れてもいい頃だとは思うが・・仕方ないと思う。しかし二度とこんな事が起きない事を次を担うお前達に祈る。」
男はこの場にいることが不快だとばかりに切り上げると司会がとめるのを無視して出口へと向かった。後ろを向いた弾みでフードが外れ、漆黒の髪が覗く。
天界にはいない黒い髪。
出口前で側にいたエージェントに何か言うと音も立てずに消えていった。
男が立ち去った後、最後の説明や解説があり講演会は終わった。
あれは一体何なんなのだと囁き声が広がり、出口付近は人だかりが出来ていた。
3人は訓練のチームを組んでいたため一緒になって担当からの手紙を受け取る。
中には4枚の紙が入っていた。一枚は詳細案内。3枚はそれぞれに当てられた課題。
「うげっ!課題とかって・・・マジ・・・。」
「めんどくせぇえ!担当誰だよ!!」
「うわ〜。担当は・・あれ?なにこれなぞなぞ?」
それぞれ自分に課せられた課題を見るなりため息をつく。レオが担当を見るとそこには名前は無く、不思議なものが書かれていた。
「”真実と現実・過去は不動の物。真実と過去を見つけ闇を飲め。己が守るべきものを見つけ出せ”って・・真実?」
「闇をのめって・・・どうやるんだよ・・・。」
「ってかこれって・・・さっき俺たちが話してたあのゲームに出てくる一説じゃね?」
まさかゲームオタクとかではと一瞬嫌〜な予感が3人の頭をよぎる。
課題をするため図書室へと足を向ける途中、廊下の向こうから何かが走ってきた。
反射的に道を譲ると背の低い純白の髪を揺らした黒い人物・・・アキラが通り過ぎた。
その後ろを、エリナを始めとする女エージェントたちが追いかける。
「アキラ!!ちょ〜っと顔貸すだけでいいから!!!」
「あぁ、もう。いいじゃない。」
「良くない!!!!」
アキラは躊躇無く窓から外へと出ると姿をくらませる。それを悔しがるエリナたち。
しかしすぐさま上と下に分かれて捜索しだした。
「なんなんだ・・あれ?」
普段走ってはいけないと言われている廊下を疾走。しかもエリートエージェントやその他エージェントたち大人。驚かないはずが無い。
「さぁ・・・。」
「あいつらはもう行ったか?」
「うん。もういっ・・・!?」
背後から聞こえた声にレオが答えるが慌てて振り返る。
そこには先ほど窓から消えたはずのアキラが立っていた。
「あっアキラさ・・むぐっ」
「大声を出すな。まったく。散々人を追い掛け回して・・・。その詳細案内は馬鹿が書いたものだ。これが正しい詳細だ。持ち物はそこに書いてあるもののみで時間厳守。以上を守るように。俺は待たされるのが大嫌いだ。」
アキラは新しい紙を渡すと近くから聞こえる声に反応し、いち早く走り去っていく。
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