「無事皆様は天界へと戻り、あなた方様の祖父であられるキフィー様、ウィルターナ様、ゼフィー様は天界の陣内にいることはあってももう二度と魔界へは足をお入れになりませんでした。」
 親族を一切知らないジャックは自分の祖父がゼフィーという名である事を頭に刻む。
どんな人から分らなくとも、ウィルターナの言葉を聞き入れ、覚えていないはずの恩を返す。それだけでも分ったのだ。
 
「アキラは…。」
「アキラ様がおっしゃったとおり、一週間もの間あらゆる苦痛を与えられました。
それでもなお、アキラ様が再びお心を壊さなかったのは…ご友人方のおかげなのでございます。」
 ジャックの問いにリチャードは悲しげに顔を伏せる。
 
 
 次に闇から浮き上がったのは洞窟であった。
若干成長したアキラはダモスとともに進み、最奥に鋭い牙が岩に突き刺さっていた。
アキラが手を伸ばすとそれは金龍の絵を模した白銀の剣…見慣れたあの大剣へと姿を変えた。引き抜けば穴から光の球が飛び出る。
『我を封印し剣を抜いたのは汝か?』
 光は何処かで聞いた声で問う。アキラは無言のまま頷いた。
『なるほど…。我と同じ血をひきし魔王家。剣を引き抜くことがどういうことか貴様理解しているのか?』
『…ここにくるのは初めてだが、俺には約束があった。それをかなえるために来たまで。』
『約束・・?』
 
「これってあのグラントっていう人の声じゃない!?」
 アキラは淡々とした口調で答え、光が答える。
その声にレオは思い出した。
たしかにと、後の2人も納得しリチャードはそうでございます、と頷く。
光はアキラの中に吸い込まれ、心配げに見守るダモスを振り返る。
髪は濡れ羽色。目の下には牙のような刺青が彫られ、藍色の瞳がダモスを見るなりお辞儀をする。
 
『グラント=フランカウでございます。魔王閣下。ご安心ください。私は悪魂ではありません。が、今しばらくはご子息のお体の中に住まわせていただきます。』
 
 
「多重魂…。アキラさんって別の人の魂入れていたんですか!?」
「そうでございますミラス様。アキラ様は膨大な魔力ゆえに混乱や暴走はなさいませんでした。代わりに少しでもグラント様が行動できますよう特殊な人形をお造りになり、今でもグラント様は時々ご自分の魂をお入れになり人間界などを歩いておいででございます。」
 以前見た男が消えた後に残る人形。
それがそうだというならばやはりあの男性はグラントだったのだ。
だが仮にも自分の体にいる魂。
それを別のものに一時的とはいえ、移し長時間単独で動けるようにする。
そんな例は今までない。寄生した魂が別になるとき、それは魂の死か、成仏かのみ。
これも膨大な魔力をもつがためにできる事かと3人は半ば感心していた。