再び現れたのは船の中。
揺れる船室内でアキラはマントに身を包み込み、じっと待っている。
髪は今と同じく首元で一括りにされ、腰まで届く長さだ。
 リチャードによれば…10歳だという。
だが外見は遅すぎるほど若く8歳の頃からほとんど変わっていない。
通常はどんなに遅くても15歳あたりまでは人間と同じように歳をとるはず…。
ふと、アキラが立ち上がり戸に手をかけようとした瞬間、向こう側から髪を高く結った男が現れる。
「じいちゃん!?」
 男の顔と髪の色にブラッドは驚く。
『子供!?』
 思わず固まるブラッドの祖父…ウィルターナにアキラは手にしていた剣の柄を突きたて外へと跳ね飛ばす。船の上は…天族と魔族の戦場だった…。
ウィルターナはそのままバランスを崩し、海へと落ちるがアキラはそのまま甲板へと向かった。
 そしてアキラの姿が人ごみに消えた瞬間、あたりを紅蓮の炎が竜巻のように吹き荒れ、魔族以外がすべて海へと投げ出されてしまった…。
 
 
 ほんの数秒闇に包まれたかと思えば何処かの洞窟が映し出される。
そこには多くの天族が横になり、痛みにうめいていた。
そこへ馬から下りたアキラが、もう一人の誰かとともに怪我の手当てをする。
その中に…真っ黄色の短髪の男性と真っ青な髪が四方に立った男性…そしてウィルターナが横にされていた。
「もしかして…おじいちゃん…?」
「俺の…祖父…?」
 まさかのアキラとの接点に3人は驚く。だがそれならば何故…。
 アキラは馬の鞍から荷物を下ろし、着物の懐から地図を出してその上に置く。
そこに突然男が飛び掛ってきた。
赤髪を高く結った男…ウィルターナはアキラの喉元を押さえつけ、身動きが取れないよう押さえ込む。
 とっさにもう一人いた人物が駆けつけようとするがアキラはそれを手で止めるとウィルターナと目を合わせ擦れた声を絞り出すかのようにだす。
『…こうする事でしか…助けることができませんでした…。』
 ガラスのような目が一瞬不安な色を浮かべる。それに気がついたのか、ウィルターナが手の力を緩めるとアキラは立ち上がり一歩間を空けた。
 
『ここから天界に抜ける道があります。皆さんがおきましたら速やかに帰って下さい。二度と…魔界には戦争のために来ないでください…。』
 アキラはそういうと奥の闇に包まれた道を示す。
『君は…一体何者なんだ。』
 どう見ても普通の子供にしか見えないのにこの行動力と何故戦場にいたのかという疑問。
アキラは一瞬迷うように口を閉じ、意を決したのか口を開いた。
『…僕はアキラ=ノウライ。ただの…道具です。』
 アキラは今と同じ名を名乗る。
その答えにやはり首を傾げるがウィルターナは思いついたように深刻な顔をし、アキラの顔を真正面から見据えた。
『こんな事をして…』
 無事ですむはずがない。
ウィルターナはそう言う。
 魔族の敵を助けるなど・・・あってはならないのが戦争の常識。アキラはその答えに自嘲気味に笑う。
『おそらくもう僕のことはヴァルキ様にお見通しでしょう。安心してください。外には何十結界と張りますので皆さまが無事天界に着き、出口を塞ぐまで・・・ずっとあるでしょう。』
 元から罰は受けるつもりだと伝え、もう一人の人とともに洞窟の外へと走り去る。
走り去るアキラに何を言おうとしたのか、聞こえる間もなく入り口が跡形もなく消え、唯の岩のみが残された。