「この時…アキラ様のお力は目覚めました。何故瞳が赤くなるのかなど…まだ分らないことが多々ございます…。しかしアキラ様はこの訓練を境にお変わりなされました。
ご自分が弱いから他人を巻き込み、同情や情けなどがあるから他人を…他の命を奪えないと。そうおっしゃいました。」
 闇に包まれる中、リチャードは重々しい口調で語る。
怒りと恐怖に正気ではいられなかったアキラ。正気に戻った途端、精神的に耐え切れなかった…。
優しさと引き換えに得た力…。
だが…その力は果たして良かったのか…。
 
 
「こんな訓練・・・間違ってるよ!!」
 人を人と思わない訓練。戦争に勝つためとはいえ、多くの小さな命すらも厭わない非人道的かつ…非生産的な訓練。
「この訓練は…ダモス様もご存じなかった書類にも記載されていない訓練でございます。
覚醒…ともうしますか、アキラ様が力に目覚め気絶なされている間に魔力の測定値、そしてお目覚めになってからさまざまな点において検査されました。
当時アキラ様の魔力値が180値…8歳のお子の平均が300。魔力を生み出す魔器というものがございますが、アキラ様はそれが未熟でございました。
そのためほとんど魔法はお使いになれませんでした。しかし、訓練された大人を超えそれ以上は測定ができませんでした。
無限に沸き起こる魔力に…アキラ様のお体は徐々に蝕まれておしまいになられました…。」
 
 異常すぎる力の変動。
一応医者の跡取りとして魔器についての説明は受けていたレオはあまりの変動に驚く。
測定器は9ケタ測り出すことができる精密機械。
元々魔界にあった技術のため精度はかなり高い。それが振り切れるほどの…。
「そしてアキラ様の検査の結果…IQ200以上ということが出ました。アキラ様は先読みする力が勝手にお働きになり、すべて解けてしまったのだろうとおっしゃいます。
本当の事なのかは力のことが解明されておりませんので分りませんが…。アキラ様は他にマリア様がお持ちであった癒しの力を持っておられることも判明いたしました。」
「そんな力が…。」
「魔器が原因で体が蝕まれるなんて・・。」
 魔器は人体の限界を超えることはない。だが魔力を限界まで使うと死にいたる場合はある。
だが常時体を蝕むようなことは今までレオが聞いてきた話にも、調べたことにも載っていない筈だ…。
アキラは常に髪から魔力を放っていた…。すなわちアキラの体ではとてもじゃないが持ちこたえられないのだ。
 
「今ではそのお力を天界の魔力炉にお入れになりわずかでもお体の負担が減るようにしておいででございます。」
「え…おれ達が普段使っている電気とかガスとかに変換されている魔力って…アキラの…。」
 天界ではすべて魔力で動く。
天界すべてに光熱系統を提供している魔力炉には膨大な魔力が蓄積されている。
だがそこに魔力を注ぎ込んでもわずかしか減らないという…。
 
   闇に落ちた視界に一瞬、アキラが浮かび上がり消える。
人形のような表情…。
それは力を得た代償とも言えるべきものであった。