ふっと辺りが再び闇に包まれ、3人はショックに陥っていた。
何故あんな傷を負って生きていられるのか…マリアがアキラを庇った結果・・・
より悪い方向へといってしまったこと…どれもが5歳の子供が経験することではなかった。
 
「ひどい…。」
「なんでこんなにしてまでアキラを…。」
「どうして…こんなことに…。」
「何度…何度この映像を見たことでしょうか…。その度に私も何かお力添えができれば…そう後悔しない事はございません。」
 リチャードは自分の無力さを悔いるように視線を落とす。
「この後どうなったんだよ…。」
「ダモス様が幾度となく交渉し、月に数日城へと帰ることが許されました。
しかし、連日の訓練によりアキラ様はいつでもお体にキズを負いながらでございました。
マリア様が幽閉されておりました塔に通い、マリア様と良くお話になられておりました。
私どもにもいつも、不器用ながらにお気遣いなされるお優しい方でございます。
いまのアキラ様からはご想像もつかないでしょう…。アキラ様の力は何かをお守りするものでなく、
何かを壊すお力でございます。アキラ様は自分とは正反対のそのお力に…心を砕いておいででした。」
 
 
 再びあたりの景色が浮かび上がる。
5・6歳の…それでいて先ほどよりは成長したアキラが不釣合いな真剣を持ち、少し年齢が上に見える少年たちの間にいた。
 外見では判断しにくいがリチャードによればアキラは7・8歳だという。
目が釣り上がりいまのアキラにより近い顔立ちをしている。
 アキラ達がいるのは広い高原。目の前には結界に覆われた “マーダー”という猪の体にクワガタのような口角と殻に包まれた魔獣が、多数結界が開かれるのを今か今かと待ち受けていた。
 ヴァルキのほかに数名教官のような男達があたりを囲んでいる。
ヴァルキの隣には結界で囲われた長身細身の男性が一人。
漆黒に近い長髪を三つ編みで一つにまとめ、息子と同じように前髪から触覚のように突き出た2本の髪。赤い瞳をもったアキラに瓜二つの男性…魔王ダモス。見かけは20代前半にしか見えない。
彼はこれから行われる”訓練″を予想してか結界を壊そうと拳を叩き付け、何かを叫ぶ。
 
  声は一切遮断され、息子には届かない。
 
 
《一時間生き残れれば訓練は終了とする。開始》
 ヴァルキの声とともに魔獣の結界がとかれ、子供達と魔獣は正面からぶつかり合った。
だが、大人でさえてこずる魔獣。次々に跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられる。
小柄なアキラは跳ね飛ばされた衝撃で別の魔獣にあたり、その場に倒れる。
 動かない塊と化した子供に飽きたのか、マーダーは目標を変え、ヴァルキやダモス、 ほかの教官にまで襲い掛かる。ダモスの結界が消えると同時にダモスが炎呪文を唱え、 一瞬にして魔獣を灰に換える。
 そんな中、どこか骨を折ったのか立ち上がることのできないアキラに魔獣が襲いかかろうとしていた。
とっさにダモスが庇い、背に顎が刺さる。
倒れるダモスに再び襲いかかろうとした魔獣は…一瞬にして吹きとんだ。
《許さない…》
 小さな呟きが聞こえたかと思うと立ち上がったアキラの右手に魔力が集まり、左手で固定する。
【破壊の光 (ザクレヴァイス)!!】
 純粋な魔力のみの魔法…そうとしか思えない光線が教官に喰らいつくマーダーを一瞬にして塵にし、はるか遠くまで伸びていく。
 そして、アキラの体に異変が生じた。
肩までの髪が急激に伸び、体の2・3倍は裕に超える長さとなり青い瞳が赤く染まった。
折れていたはずの足が音を立てて治る。
落ちた剣を拾うとアキラの姿が突然消え、残されていたマーダーが血を噴出し次々消滅する。
《ハハ…ハハハハハハハハハ》
 狂ったような笑い声が聞こえ、最後のマーダーが細切れになると血の雨の中、アキラは恍惚とした表情で雨の中佇んでいた。
しかし、目の色が青に戻ると同時に剣を投げ捨て、滴る血に愕然となり気を失うようにその場に倒れる。
地面につくより先にダモスがその手でアキラを抱きしめた。