《どちらもいやです!この子をあなたに渡すくらいなら斬っても構いません!この子だけは見逃してください。大体…この子がなにをしたって言うのよ。》
《母上・・・いいよ。放して・・。大丈夫・・・だから。》
《アキラ、お母さんを信じなさい!大丈夫だから。ね・・・。》
 抱きしめられたアキラが言うとマリアは息子の姿をヴァルキから隠すように必死で覆う。
《貴様を殺してそいつを奪ってもいいのだがな。第一に見逃す?もとより私はそいつにしか用事はない。》
《この外道!貴方はそれでも神なの!?》
《うるさい!私は既に神ではない!忘れもしない。あの屈辱と憎しみ。》
 マリアの言葉にヴァルキは激昂する。
部下の一人が取り出した鞭がマリアへと降り注ぎ、アキラは徐々にあせった様な…それでいて不安な表情を見せる。
 このままでは…そう声が聞こえそうな表情…。アキラの見えている未来とは…一体何なのか…。
《さぁ渡す気になったかな??》
《いいえ。誰があなたみたいな人に。》
 マリアは強い女性だと3人は思う。ヴァルキを睨み上げ、強い意志を感じさせる目を一点に集中させる。
《この女!えぇい貴様の腕の一本や二本切り落とすまでよ!》
 ヴァルキが剣を振り下げる。
 
 
 そのとき、3人は奇妙な現象を目の当たりにした。
アキラの姿が一瞬かすみ、次の瞬間にはマリアとヴァルキの間に立ちはだかっていた。
赤く濡れた剣先が地面を食む。
 小さな体を左肩から右腰まで斜めに切り裂き、舞う血。
 
 
《・・ぅっ・・ぁ・・・かはっ・・・。》
《アキラ!!》
アキラはどうにか踏みとどまるとヴァルキを睨みあげた。
《    !母上を切らないで!僕・・・傭兵にでも何でもなりますから母上を切らないでください!こんな傷だって痛くない!!だから・・これ以上母上を傷付けないで…。》
 なんと言ったのかは分らないが、ヴァルキに向かってそういうと一歩と震える足を進める。
《アキラ!何言っているの?アキラだめ!》
《くっくっく。マリア。親思いのいい子ではないか。必ずや親の期待にこたえられるような立派な兵にすると約束しよう。連れていけ!貴様は来い。》
 縄をかけられ、ひかれていくマリアをアキラは焦点がさだまらない瞳でぼんやりを見つめる。
《待って!せめて回復魔法ぐらいかけさせて!》
《黙れ!その口を閉じないと・・。》
 振りほどき、駆け寄ろうとするマリアにヴァルキが再び近づく。
 
《母上!平気だから!!    、早く僕を連れて行ってください!!》
 震える足で・・・声ヴァルキを止めるため…叫ぶ。そのアキラにヴァルキは薄く笑うと髪の束を差し出した。
《アキラ、この入隊証明書にお前の手形を押せ。なぁにその手を血に当て、ここの押すだけでいいんだよ。そうすればお前の大切な家族には手出ししないと誓おう。》
 到底子供には読めない文字が並び、ヴァルキを二言三言と言葉を交わしているようだが、再び声は聞こえず、口の動きで読むのも難しい。アキラはその小さな手を赤く染め、手形を押す。
 アキラは・・・マリアとは別の方向へと連れて行かれた。