「リチャードさん、さっき言っていた友人方って…」
「えぇ。そうでございますジェームズ様。レイナ様、リザ様ご姉妹はアキラ様ととても親しく、アキラ様のお心をお救いくださった唯一の方々でございます。そして…レイナ様はアキラ様の恋人でございました。」
 うれしそうに言うリチャードだが、やはりもう一人の少女の名前を言わない。
「あのリザっていう人じゃない人はなんていう名前なんですか?」
 レオが問うとリチャードは首を振った。
アキラの命で記憶の世界に出ない名前は決して、あらゆる手段において教えてはいけないと。
ただ、リザの姉だとだけ3人に教えた。
 
「申し訳ございません。」
「いえ…仕方ないんだったら…。それとアキラの恋人って…」
 今のアキラを見る限り恋愛感情があるかどうか疑わしいほどだ。
どうしても恋人という言葉がしっくり来ないジャックは眉をひそめる。
リチャードも苦笑しながら同意するように頷く。
「今のアキラ様を見る限りそうでございましょう。当時もアキラ様は特にそういった感情についてはあまりお持ちではありませんでした。しかし、その中でもレイナ様は特別だったのでございます。」
 
 
『いいなぁ〜。ダンス。私まだうまく踊れないから…そうだ!アキは踊れるんだよね。  ちゃん達も。ねぇ、お手本見せてよ。』
 無邪気に笑うレイナに3人はしばし考える。
『じゃあ俺とレイナ、 とリっちゃんのペアで踊ればレイナも覚えやすいんじゃないのか?』
『だめ!それは無理!!完璧に踊れるようになったらその時アキに手を取ってもらうの!』
『じゃあわたしとレイナが組んで…。』
『お姉様、私は心に決めた人がいます。その人以外と手を組むのは絶対いやです。』
 結局、リザとレイナ。アキラともう一人の少女が組み、その少女がレイナにアドバイスを送りアキラが動きを教える。息の合った2人はアキラの恋人がレイナであると知っていなければこの少女がアキラの恋人ではと思うほどだ。
 
『よし、特別に今日は無償で笛を吹いてやるよ。』
 記憶は短縮されているのか、またどのくらい時間が経ったのかは分らないが、少女を中心に3人は座り静かな笛の音に耳を傾ける。
 
「この曲…確か前に訓練中に聞いたことがある…。」
 その調べにレオは思い出したように手を叩いた。
訓練中聞こえた笛の音。
状況から考え、アキラが吹いたであろう調べに目の前が闇に包まれるまで耳を傾けていた。
 幸せそうな4人を思い浮かべ、今まで悲しい記憶ばかりだったことからほっとした3人は再び顔を曇らせたリチャードに首をかしげる。
「とても…とても仲の良いお3方でございました。…あの事件さえ起きなければ今でもアキラ様はお笑いになったでしょう。」