『もっと早く見えていれば…ハルも…。』
『また力使って…先読みの力でもアキラに負担が…。あの力だけは…絶対に使うなよ…。』
 視線をそらすアキラにガンは力を振り絞り、腕を掴む。
アキラの瞳が徐々に赤く染まっていくのを止めるかのように縋るガンだが、瞳はほとんど赤くなっていた。
『親父!!げほっ…がはっ…。これが俺の寿命だったんだ…だから…だめだ…。俺の代わりに…ジャックを…ジャックを頼んだ…。』
 咳き込み、血を吐くガンをアキラは抱え込む。
その瞬間、再び紅蓮の炎の映像が断続的に現れ、そこへレイナの最期の映像も重なる。
 それはアキラの精神が乱れ記憶が混同しているしるしであった。
紅蓮の炎の中、黒い影がよぎる。それは赤く光る光を持った影。
 
 
【熱い…から出…て】
               【苦し…助けて…】
    【…ナ……から…】
          【必ず…から…かなら…ける…待っ…リー!!!!】
 【会え…い…僕…悲…い…いやだ…のは…】
 
 
『俺には…もうできない…。ガン…?ガン!できない…俺には力を使わずにはいられない!!』
 掴んだ腕が滑り落ち、アキラの体から眩い光が溢れると同時に4人は記憶から現実へと戻っていった。
  
 
 現実の世界に戻ってきたジャックは自分の父と母の死を目の当たりにし、呆然と涙を流していた。
目を腫らしたレオとブラッドがどう声をかけたらいいのかと迷う。
その間にリチャードはゴークに付け加えられた記憶を話していた。
 
「アキラには口止めをされておったが…ガン=マルスは生きておる。」
 重々しい口調で口を開いたゴークの言葉にジャックははっと顔を上げた。
驚いたのはジャックだけでなく、レオとブラッドも耳を疑った。
「アキラが一体どんな力を使ったかはわからん。じゃが、歳をとらぬままずっと20年間眠り続けておる。どうすれば目覚めるのか…。そして果たして本当に生きておるのか…それすらわからない状態じゃがの…。」
「どこに…。」
 死んだといわれていた父が生きていると知ったジャックはすがるような思いでゴークを見つめる。だが彼も詳しい場所は知らず、多分ミラス総合病院にいるだろうと。
 
「アキラには…家族と呼べるものはガン=マルスしかおらんからの…。」
 命に代えても守りたかったんじゃろうと悲しげにゴークは言う。
「でも天王様のお孫さんじゃあ・・・。」
 悲しさの混じったため息を吐くゴークにブラッドは首をかしげる。
どういえばいいか迷ったようだが、湾曲せず真実を伝えようと息を吐いた。
「昔…まだ戦争が終わり、混乱が残されているとき…手ひどい暴力を振るわれアキラは幾度となく入退院を繰り返していた頃、連日の疲労とストレスがたまるわしの元に怪我を負い病院にいるという知らせを受けてな…。
その頃は知らなかった…言い逃れはできんがわしは…なぜ入退院を繰り返し、そのたびに書類を作る時間を作り出さねばならないのかと…苛立ちと理由を話さないアキラに疎ましさも抱いていた…。
気がついたときにはキフィーに殴られるまで首を絞めておった。」
 思い出したのか、そう大きくもない普通の節くれだった手を見つめる。
「今でも思い出しては後悔の念が胸を締め付ける。まだその頃は今よりは幾分か表情が分るときじゃった…。一瞬見えた怯えた顔は今でも忘れられん。
それ以来…アキラは…あの子とわしは祖父と孫の関係ではなくなってしまった。その後キフィーに散々怒られ真実を知った。じゃが…いまさらもう…アキラはわしを祖父としては見ない…。一番支えが必要なときに見捨ててしまったんじゃ…。」
 
 もう戻らない過去にゴークは深いため息をついた。だがそうならばアキラの祖父ならば・・以前アキラは似たようなことを言っていた。
だがそれはすべて自分が悪いことだといい、そのために距離を置いているのだという…。互いが己を責めているがために…和解ができない…。
 
「それより、先ほどギンク殿から連絡があってな。いろいろ聞きたいことがあるじゃろ。ナイトヒルのギンクを訪ねるといい。そこにアキラがおる。」