清清しい朝の空気と日の出で目が覚めたレオはギンクが貸してくれた浴衣を直す。
顔を洗い身支度を整えると居間に向かった。
ふと、浴室に続く角から音もなく浴衣に身を包んだアキラがレオの目の前に出てきた。
 
「…おはよう。よく眠れなかったのか?」
 首に掛けているタオルにうまい具合にぬれた髪を載せ、やや見上げ加減のアキラに驚き返事の仕方を忘れたかのようにレオは口を開け閉めしていた。
 そんな様子にアキラはどう思ったのか、今へと入ると別の奥の部屋で着替えをする。
白いTシャツにズボン姿になると立ったままのレオを座らせ、台所へとはいっていった。
 
「早いのう。よく寝れたか?」
 突然背後から声をかけられ、思わず飛び上がってしまう。
そんなレオをギンクは楽しげに見ると机の反対側へと腰を下ろした。
 
 しばらくするとアキラが台所から朝食を持って出てきた。
「え!?今作ったんですか?ありがとうございます。」
 和食を食べるのはレオにとっては初めてであったが、細々とした品に目を見張る。
「一人ではないときに作っていたからな。口に合わなかったらすまない。」
「魔族も魔族で渋い趣味しておるな。こいつがここに来る様になってから少しずつ改良したんだが・・・本場にはなかなか追いつけん。
参考にしている日本もだいぶ雰囲気が変わってしまったし、いまだ魔界にいく許可が下りんのでみに行けん。こういう和の空気はいいもんなのだかなぁ。」
 20年とはいえ、魔界で育ったアキラ。やはり幼い頃食べていたものが一番性に合うらしい。
 
 
 先に3人で食べていると、遅れてジャックとブラッドがおきてきた。
一応着なおしてはいるがやや着崩れている。
 
「うわっ!すげぇ…。」
「もしかして・・・アキラが作ったのか?」
 やはりこの2人も目の前に並べられた和食には驚いたのか、すげぇと感激をあらわにする。
 相変わらずアキラの食べるものは少なく、手早く片付けると箪笥の引き出しを開け何かを探し始めた。しばらく探していたが、ギンクの言葉で一番下の引き出しを開け、青い布張りのアルバムを引っ張り出すと食べ終わったジャックにそれをさしだす。
一体なんだろうかと受け取ったジャックは開いた途端、思わずあっと声がこぼれた。
「これ…ジャックのお父さんとお母さんじゃないの?」
 レオの言うとおり、アルバムにはあの記憶の球でみた男女が笑っていた。ジャックが生まれたその日の写真もある。
「俺の手元においておくことができなかった。これはお前がもっているほうがいいだろう。」
 笑うガンの隣にはロロイと思われる同年代の姿があり、若いキフィーやキンファーレ…ウィルターナやレイルッドの姿まである。
だがアキラの姿はまったくといっていいほどない。時折写っているのもあるが”首輪”が外され髪が黒いものやずっと年上に見える男性、そしてグラントや黒髪の女性、群青色の髪をした男性など天族ではまず見ないであろう人々が写っている。
 
「この人達って…。あれ?アキラは?」
 アルバムからブラッドが目を離したときには既にアキラの姿はなく、ギンクのみが茶をすすっていた。ブラッドの声に2人も気がついたのか目を離し部屋を見渡すが縁側に向かう障子が開かれ、庭に足跡が続いている。
「さっき泳いでくると崖の方に向かったが…お前さんたちは絶対に真似するなよ。行くなら崖下に行ってくれ。」
 湯飲みを片付けるギンクに道を聞き、3人は崖下へと向かった。