その後、アキラが明日帰るということで3人ももう一晩泊まることとなり、アキラの作る夕食を手伝っていた。
 元は3人が作る予定であったが、傍で見ていたアキラが強引に道具を取り上げ、眼もあてられそうになかった食材をどうにか口に入れてもおいしいといえるものにしたのだった。
「そういえば…写真でもそうだったけどアキラってあんま笑わないんだよな…。」
 食事中、唐突に思い出したジャックが指摘すると余計なお世話だとばかりに軽く睨みつける。過去の記憶の中でもほとんど表情に変化はなかった。
 
「もしかして笑い方忘れちゃったとか?」
「感情を押し殺すような生活を送っていたため、口調が硬いだけでなく感情すらもほとんどないだけだ。負の感情ならいくらでもあるんだがな…。楽しい・嬉しい・恋しいなどの感情はほぼ理解できない。」
 冗談交じりにブラッドが言うとアキラは頷く。
訓練生として幼少時から5年とはいえ非人道的な訓練を受けていたために感情というものを押し殺さずには正気を保てなかったのだろうとやや重い雰囲気が流れる。
「じゃあ、笑顔の練習!ほら!にっこり!!」
 そんな中、重い空気を吹き飛ばすようにブラッドが立ち上がりにかっ、と笑うとジャックとレオは咽て咳き込む。
アキラは困ったような面倒だというような雰囲気であったが、頬あたりがわずかにあがっていなくもない。
「う〜〜ん。ま、最初の頃はそんなもんだ。要練習だけど。」
 なにやら偉そうに言うブラッドに咽ていた2人は声を上げて笑い出した。
 
 
 後片付けをし、先に浴室に入っているアキラを追い中に入る。
浴室…とギンクが3人に言っていたが実際には広い大浴場へと続く戸を開ける。
和を好むギンクの趣味か岩風呂となっているところにポツンと、アキラがいた。
さすがに首輪は外されており漆黒の髪を洗っている。が、その長さがおかしい。
「どうした?」
「そっそっその髪!!もしかして…訓練の初日に僕達が見た…。」
 身長の2倍はあるのではないかという長さ。
裕に2メートルは超えている。そのことかとアキラがため息混じりに頷いた。
「振り向いた途端消えるから不思議には思っていたが…隣に女湯があるのに間違えて入るわけないだろうが。」
「あの湯煙美人が…ありえない。絶対違う!!」
「絶対うそだ!あんな華奢な体の長い髪の人がアキラなわけ…。」
 否定するジャックとブラッドにアキラが睨みつける。
「魔王家は代々髪に魔力の強さが反映される。父上も髪を解けば多少は伸びるほどだ。髪を結ぶことで本来の髪の長さに縮む。俺の場合切っても腰の長さまでかってに伸びるがな。」
 いまだ違うと言い続ける2人を軽く小突き、湯船へと沈めた。