「そういえばその指ぬき手袋したままなんだね。」
手袋というよりグローブなのだがアキラはどう説明しようかとふた呼吸ほど間を空けた。
「手の甲に魔力を押さえ込むための封魔束縛魂法陣が描かれている。魂そのものを束縛するため魔力は極端に低下する。
今の俺の場合開放時の50分の1が常になっているが半分開放しただけであの大爆発を起こしたほどだ。完全開放はしたことがないな。自分で制御できる自信はない。」
外しても問題はないそうだが万が一法陣が消えると厄介だから外せないというと3人は揃って絶対に外さないでと口をそろえる。
「そういえば・・・この肩にある刺青みたいなのって魔王家の紋章とか?」
ブラッドが示す先には色白のアキラには不釣合いな黒い刺青のようなものがあったのだ。
一見花のような形ではあるが龍の顔のようにも見える。
「あぁ、魔王家の紋章だ。これは生涯己の命を捧げると誓ういわば契約印。
刺青ではなく魔力による焼印だ。ランが素でカトレアは高貴や魔力を意味する。唇弁部とその左右の花弁と真上にある花弁…花弁に見える萼片は4匹の龍の頭を示し、魔族の信仰を意味する。残る上部の左右にあるのは見てのとおり魔族の男女の翼を意味する。魔族の女性の翼には突起がないが、男には爪のような突起がついているんでな。そしてそれぞれの先端を花弁、萼片で結ぶと六法星が出てくる。そしてそれはカトレアが意味する魔力を表している。魔力の種族、魔族と。円で囲むことで永遠を意味するとも言われる。」
アキラの説明にいまいち花を見たことがない3人であったが、どこか和やかにその紋章を見た。花をモチーフにするのはどこか穏やかな雰囲気を感じたのだ。
右肩にもあるといわれ見れば十字をモチーフにした天王家の紋章が刻み込まれていた。
十字の横棒の片端は天界の翼、反対は龍の頭。そして縦棒に巻きつく龍の尾は先が鋭い刃物のような紋章。
「天王家の十字は癒しの呪文が使えることから救護の意味。羽は自由と天族を意味する。そして龍は魔王家と同じく力と龍の血を受け継いだという伝承から両王家の象徴となっている。そして尾はもう廃れ、意味を知っているのは極僅かしかいないが、天族は元々好戦的な種族だ。その武力と力を意味している。」
好戦的な種族と聞き、3人は驚く。どちらかといえば魔族のほうが好戦的だと教えられていたのだ。
だが、戦争の話の際アキラが魔族は非好戦的で温厚な種族といっていた。つまりは天族のほうが好戦的だと言外に言っていたのだ。
湯船から上がり、再び浴衣に着替える。
「その傷…すげぇけど痛くはないのか?」
ジャックが指摘するのは言うまでもなくアキラの傷の事だ。
腕や足にはほとんどないが、左肩から右脇腹にかけて痛々しく残されている一本の傷や刺し傷のような傷、切り刻まれたような傷が胴体に残されていたのだった。
さすがに切られたときは痛んだらしいが今は特に気にしていないという。
「俺は防御するための呪文とどうも相性が悪いあげく、あの剣の結界には俺が入ったところで状況がよくなるわけではない。その代わり呪文などを受けた際、皮膚がほとんど弾く為特殊なものでない限り、傷は与えられても傷を残すことはできない。」
新たに脇腹に傷が増えていたが、それ以外の傷跡はない。特異体質だというとさっさと廊下へ立ち去ってしまった。
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