「突き当りの部屋って、俺の親父の部屋なのか?」
「あぁそうだ。本人から絶対に入るなといわれている。あの人から聞いただろうがガンは生きている。書類上では10年以上意識がないため死亡した者として扱われているが目を覚ませば十分な休養後、修正することができる。親族とは言え、あそこに入るにはあいつの許可が必要だ。」
 下の奥の部屋にいたアキラにジャックが尋ねればそうだと、あっさりとした返事が返ってきた。
 術を施したのはアキラらしいが、それは本人の希望であり生きている限り彼自身がとかなければ開くことがないと補足する。
 その答えにジャックは不服気だったが今目の前に現れても記憶にない父親にどう接したらいいのかわからないなと、生きているならまだまだ時間があると自分に言い聞かせ、つばと共にため息を飲み込む。
 アキラは先ほどから何か書き物をしているらしく3人に背を向けたままだ。仕事をしているのかと思い興味深げにブラッドは背後から手元を見た。
 
「なにしてんだ?さっきからなんか書いているみたいだけど・・・。」
 細い筆記がびっしりと書かれたそれを眼で読むが、特にアキラはとめない。
そこにある文字を読むにつれ、ブラッドは驚きに目を見開く。脇からジャックとレオも覗き見し、えっと声を漏らした。
「これって・・・あの神話の・・・。」
「龍神ディール・・・時空神ネル・・・邪神ユリシア・・・邪女神ユーシア・・・狭間守りのノラ・・・」
 アキラの書いているものには天界の神話でも知られる4人の神の名前が書かれていた。
双子の神、ディールとネル。
邪女神ユーシアとその兄ユリシア。
 神話ではユリシアが自身を封印していたユーシアを乗っ取り、時空神ネルを殺し怒り狂ったディールは暴走しユリシアごと世界を破壊しつくそうと他の龍を率いて暴れまわったという。そして世界に邪を振りまくユリシアと対峙し共に果て、龍はその後も人々を襲い続け、今まで争いのないこの地に邪は世界に振りまかれ人々は正の感情と負の感情を持つようになった・・・それが要点を纏めた一般でよく知られる神話だ。
 アキラの書いているのはまさにその神話の詳細。他の神々の名前もあるがノラというのだけが神という字がない。その3人の困惑に気がついたのか、ノラの字を示し説明をする。
「狭間守りのノラは神ではなく、最後の龍だ。この世とあの世の境、時の狭間、未来と過去の境・・・いろいろ言われているその場所に来た迷い人を案内し、元の世界に戻す役割を担っている。」
 ペンを置き、立ち上がると場所を開けたレオが近くの本棚に当たり何かが足元に落ちる。
 それを拾い上げたブラッドはその拾ったものを見るなり思わず叫ぶ。
「どうしたんだよブラッド。いきなし叫びやがって。」
「これ・・・来週発売のゲーム!!!あの神話を元にしたゲームと同じ脚本家の!!」
 天界の中でも独特のストーリーなどで長年人気のゲームを見つめ3人は目を輝かせる。
 
「しかも初回限定版!!脚本ってたしか・・・ノウライ・・・あれ!?」
 
 シナリオを書いている人の名前を思い出した3人は揃って部屋を出ようとしていたアキラに視線を向ける。その視線に振り返るアキラだが相変わらずの無表情で何を考えているのか判断しにくい。
「脚本ではなくただの情報提供者だ。魔界に伝わる神話や民話を教えて欲しいという依頼で書いている。ただそれだけだ。欲しければ持って行ってかまわない。いつもガンに渡すようにジャックに送っていたからな。」
 幹部である彼がこんな副業をしていていいのかというのが2人の頭をよぎり、ジャックは差出人不明だったゲームの送り主がアキラだと知って、ガンを息子ではないといいつつ自分のことを孫のような感じで扱っているんだと少し照れる。