スミレの入った白髪の髪はすべて後ろで束ねられ、長いひげを生やした今年で齢486歳になる外見60歳の老人…。
それが現在天界を統べている天王、ゴーク=R=カラティン。
彼は孫以外後継者がいないため未だ現役を勤めている。
そしてその孫は…本人に言わせれば王位継承権は持っていないという。
 
「今日呼び出したのはこれを見てもらうためじゃ。これはエリートエージェントのナンバー持ちになったものだけに見せる記憶の球じゃ。」
 机にころりと置かれたのは無数にひび割れた半透明のビー玉のようなもの。
記憶の球とはその対象となる人物の記憶を写し再生する。
決してうそをつかない記憶という“真実”はどんな証言よりも最優先され、必要以上に採ることを禁じられたもの。
「この中に入っているのって・・」
「アキラさん…のですか?」
 ブラッドとレオの言葉にゴークは頷く。
「見てのとおり、アキラの記憶は複雑で途切れ途切れになり…明確なものは残せない。じゃが、必要な情報だけはしっかり入っておる。…3人はアキラをどうおもう。」
 明確な記憶が取れない。つまりアキラの無意識にすらそれは残されていない忘却された記憶。そして突然問いかけられた3人は目を瞬く。一体どういうことか。
「正直…怖いです。だってあんな力見せられたら・・・。」
「俺も…ブラッドと同じで…。」
 至近距離での初めての戦闘を思い出した3人はその場に流れる殺気をも思い出し身震いする。
 
 
 そんな中、レオはアキラの体調についてのやり取りを思い出した。
メリッサが気にかけていたことでもあり、アキラも認めたアキラの不調。
「そういえば、アキラさん…本調子じゃないって言っていましたけど…。それに時間がないって。」
「あぁ、昔から無茶な戦いを続けたおかげで体にガタが来ているようじゃな。ここ最近も任務以外は自宅で休んでおるようじゃし…。」
「アキラ様はその身を犠牲にしすぎておられるのです。ご無理がたたったのでしょう。」
 寂しげなゴークの声に同調し別に男性の声が聞こえはじめてゴーク以外に初老の男性がいることに3人は気がついた。
深緑色の髪はきっちりと分けられ、ゴークと同じような丸眼鏡をし、和服に身を包んでいる。
 
「ご挨拶遅れました。私はヴァルビス家の執事をさせていただいております、リチャード=ライハットと申します。
先日はアキラ様がご迷惑をおかけしてしまったようで申し訳ございません。」
 深々と丁寧に頭を下げるリチャードにおもわず3人もお辞儀を返してしまう。
「アキラ様から常々お話をお伺いしております。本当によく似ておいででいらっしゃいます。」
 リチャードはニコニコと微笑みながら3人を見る。
「似てるって…もしかして俺の親父のことも・・?」
「えぇ、存じております。マルス様はアキラ様の凍りついたお心を溶かしてくださいました。
今のアキラ様からはご想像できないと思われますが、当時は笑顔だけでなくほかの表情もございました。もう20年ほど前になりますが…。」
 自分の覚えていない両親を知っているのかとジャックは聞くとリチャードは頷き、
思いもよらない返答を返した。リチャードは話を続けるべきか否かをゴークに視線で問うと、先に見せたほうが早いじゃろうと記憶の球を差し出す。
 
頷いたリチャードがいくつか呪文を唱え、3人とリチャードは記憶の世界へと引き込まれていった。