「へぇ〜。まだ天族を庇うのか。以前貴様にも言ったが、私は貴様の希望も何もかも摘み取り絶望だけを味あわせてやると…。やれ。」
 破黒の言葉に4人は目を見開く。
一斉に放たれた光を視野に入れるととっさに目をつぶった。
 
 激しい爆発音が聞こえ、辺りが暗くなる。
いまだ襲ってこない痛みに恐る恐る目を開けば何かが4人の周りを取り囲んでいた。
しゃらり、しゃらりとガラスのような透き通った音がし、光が差し込む。
 
 “それ”がなんなのか、光によりようやく見えたそれに言葉を失う。
目の前を覆っていたのはガラスのような鱗が覆う大蛇の巨体。
背に並んだ毛は草原を思い出させる。
頭上から聞こえる唸り声に目を向ければ巨大なその頭が空を埋め尽くしていた。
破黒らは冷静にじりじりと後ずさる。
まるではじめて見たのではなく何度も…それも捕らわれた4人から見て白目の判別がつくくらいの距離で臆することなく動向を伺う様子は見慣れていることを表していた。
 鋭い鉤爪の鳥を思わせる前脚が再び4人の視界を塞ぐと次の瞬間には草原の中にいた。
だが、先ほどの草原ではなく、“それ”の頭の付け根だとまっすぐに生えた角と耳が物語っている。
それは魔獣らを焼き払い、魔族達を尾で魔界へと掃う。
 そしてそのまま天界にはむかわず、海のほうへと飛翔を始めた。
 
 
 4人を包むように結界が張られ、風は感じないが水面スレスレを飛ぶそれ―白龍の跡を残すかのように立ち上がる水柱が尋常でない速さをあらわしていた。
「龍って…絶滅したんじゃ…。」
 あまりの展開の速さに驚くレオは何かを見つめるジャックを見た。
彼の視線を見れば白い耳が目に写る。そしてそこに赤い水晶のような光を見つけ、息を呑む。
それはその耳に対しとても小さなものであったが、自然の龍や魔獣にはまずない人工的なもの。
 
「アキラ…なのか?」
 ゴークが呆然とした様子で問えば龍は僅かに口を開き、蒼い目を細める。
『あぁ。』
 短い答えであったが、肯定の返事にゴークはめまいを起こした。
1000年前、最後の龍が魔界目撃され、今では絶滅した最古の生き物。
神話によれば龍神ディールが死んだために龍も加護を失い、互いを制御できなくなり人を襲い始めたといわれる。
現に魔界と天界では何らかの理由により、討伐部隊が結成され龍の棲みかを侵し、根絶やしにしてしまったのだ。
 戦争中で嵐の前触れのように静かな時期にそれが行なわれた。
そしてそこから徐々に泥沼の戦争に陥っていった。
 
「どうして…龍に…。」
 驚くレオの頭はどうしてという言葉が渦巻く。
確かに変身呪文で蝙蝠や鳥になることはできる。
だがこれほどまでに大きな質量になることはできない。
一定の質量しか変わることがないのだ。
「そうか!龍の血!!アキラ、それが魔王家と天王家に生まれて濃くなった龍の血の影響だろ!」
 はっと思いついたジャックの言葉に未だ呆然とする3人はそういうことなのかと理解した。
ゴークにいたっては200年も居たというのに気がつかなかった自分に悔やむ。