自分達に流れる龍の血により、稀に皮膚にうろこが現れるという人が居るとは聞いていたが信じては居なかった。
伝承は文献によってはまったく別のことを記していることもあり、本当に龍の血が流れているのかは成分を調べてもわからないず、いつしか廃れていった龍の血。唯一力だけは頻繁に使えるものが居たため信じている。
 両王家に分かれていたちが元に戻った時、どんな作用が働くのかは前代未聞のことで調べることすらしていなかった。
だが破黒らの反応によりアキラは以前からそれを知っていたかのようだ。
 
 
 不意に速度が落ち、腹にあたる部分が水面に触れ水しぶきが上がる。
何が起きたのかと見れば顔を覆う細かな鱗と首周りを覆う白い毛。
そこに一際目立つ赤い滴が閉じられた口から漏れ出ていた。
よく見れば体中のいたる所に出血がみられる。
折り曲げていた前脚と後ろ足を覆う鱗が水圧ではがれていくのが見えた。
「アキラ、もう大丈夫じゃから。戻るんじゃアキラ。あれの傷が痛むんじゃろ?」
 痛々しい龍の姿にゴークは呼びかける。
だが逆にその声に力を振り絞るかのように突然急上昇をし、丘の上を飛び続ける。
その目はいつのまにか赤く染まり、半ば盲目的に見え、血を吐きながら咆哮を上げる。
結界を振るわせるほどのその音に獣達が逃げていくのが見えた。
 
 
 平地には緊急に集まったのか、魔生物監視局の魔獣討伐部隊だと思われる複数の人々が龍を確認するなり驚きの声が聞こえ武器を構えた。
それを見たゴークは攻撃しないよう自分達がいることを身振りで伝える。
『邪魔だ!!どいていろ!!!!』
 そう怒鳴れば戸惑ったように慌てて広く場所を開ける。
どよめきが大きくなる中、速度を落としたアキラが再び上昇し、さらに速度を和らげる。
 
 傷だらけの姿に何をおもったのか、キフィーたちが眼下で何かの準備をしているのが一瞬見えるが考えるより先に龍が上昇した姿勢のまま、空中で止まる。
ゆっくりと上体をそらし地面に向けて墜ち始めたのだ。
慌てて鬣にしがみつくが、するりと鬣が手から抜けアキラの背から結界が切り離される。
 白い腕と黄緑の髪、褐色の腕に濃い緑色の髪が切り離される瞬間、ぼやけた光となって現れた、
 
【だめだこのままじゃあ…】
【くそ、切り離すのが精一杯だ】
 焦ったような若い男の声と苦々しい口調の低い男の声。
たった数秒もない出来事であったが、明らかにグラントではなかった。