第五節  「紅の守護獣」

 
 
 
 気を失っているリーズを抱えたままアキラは動かず、
荒い息が聞こえることから早く治療しなければとキフィーとキンファーレ、
そしてレオが治癒呪文を唱えるが一向に回復する気配がない。
 その場に投げ出されていた核をジャックが拾い上げる。
通常つるつるした球状の物だと聞いていたそれはあちらこちら欠け、歪な形をしていた。
「アキラが…もう一人の魔人…。」
 まじまじと見ているとアキラの背に翼が生え、2対の人の姿へと変わる。
 
「核を渡してくれ。」
「君達の武器のように亜空間に入れていたのに…ユリシアが無理やり出してしまったんだ。
アキラに核を戻さないと取り返しのつかないことになってしまう…。」
 浅黒い肌に濃い緑の髪をしたがたいのよい男と、色白の肌に薄い緑の髪のほっそりとした青年はまるで鏡に映したかのように顔はよく似ており、男は左目、青年は右目が髪に隠されていた。
2人は揃ってジャックに核を渡してくれという。
 
「ディール神様、ネル神様で…す?」
 わけもわからず核を渡すのを躊躇していると、リザがその2人の神に向かって名を呼んだ。
病弱そうな青年であるネルはごめんなさいと謝り、年上に見えていた双子兄であるディールは答えず目を伏せる。
 核を受け取るとアキラの背、ちょうど心臓があるところへと核を押しこみ、核は吸い込まれるようにして消えた。
先ほどよりも息が落ち着いてきたアキラに徐々に治癒呪文が効き始め、ディールとネルはアキラの翼に戻ると消えていった。
 
 
 そこへ地響きが聞こえ、大型の魔生物が多数現れる。
研究所から出てきたなとアルが言うとエージェントたちに伝え共に戦闘体制にはいる。
今、一番の主力であるアキラをやられてしまえば勝ち目はないとばかりに守りを固めた。
 
 結界を張り、中から攻撃するがどれほど研究所にいたのかと問いたいほどの量に結界が震える。
「くそっ…俺たちはこのくそやろうより弱いって言うのかよ!」
 さすがに幹部と言われるだけはあってか他よりも呪文を多く唱えるが、息を切らし歯を食いしばる。
年下のアキラに負けるのが嫌なのか、必死に体を動かすが徐々にスピードは落ちていった。
「アキラ…大丈夫かな…。」
「…まだ目を覚まさない…。あっあれ?ふにょどこいってたの!?」
 いつの間にか戻ってきたふにょはアキラに傍によると力を振り絞るように震える。
 
 ふにょの体から光が溢れ、一人の少女が立っていた。
「アキ、頑張って。アキ、約束したよね。みんなを護るって。アキラ…リーちゃんを護るんでしょ。」
 たった一瞬であったが栗色の髪をした少女が現れアキラを励ます。
その言葉にアキラはピクリとわずかな反応を見せ、うっすらと目を開けた。
「レイナさん!?まさかふにょはレイナさんなの!?」
 再びふにょに戻り何も考えていないようにその場を漂いレオの肩に停まる。
ふにょは疲れたのか眠ってしまい、聞くことができない。
その代わりにリザが頷く。
「レイナは核が割れてしまい人でいることがでず、
アキはレイナが生きていられるよう小さなぬいぐるみに核を移したです。
200年眠っていたですがこの間目が覚めたです。記憶も何もかも失ってです…。」
 
 口早に説明すると妙な気配に結界が震え、割れる。
だが魔生物らもその気配に気が付いたのか動きを止めた。
「なに?このへんな音…。」
 レオは木の葉が風に揺れる音にも、何かが割れるような音にも聞こえるその奇妙な音に耳を塞ぐ。
それはブラッドもジャックも同じであった。
それが伝染するかのように天族だけでなく魔族も耳を押さえその場にうずくまる。