「よし、波長を掴んだ!リザ、音の結界を張って!!あんた達天族も!」
目を見開いたリーズは笛に口を当て静かな旋律を奏でる。
魔力がこもったその旋律が届いたのか、縄に縛られたままのアキラが動きを止めた。
ネルとディールは縄を解くとアキラの翼へと戻った。
やがてメロディーが変わると戦意を失ったかのようにだらりと立ち上がり、結界の張られた場所へと近づいてきた。
鱗は白さを取り戻し、瞳の色は蒼く澄んでいく。
笛の音に耳を傾けるとやや離れた位置に移動する。
尾が一振り地面を打ちリーズを見た。
まるで指示を待つかのように静かに立っている姿はアキラそのものだ。
「まだ魔獣が生きているのか…仕方ない。どうせここまで力を使ったのだからあまり大差ないでしょ。リザ、結界を強くして。」
笛から口を離し、リザに指示を与えると再び旋律を奏で始めた。
リザもどこからともなく大きなハープを取り出すとそれを奏で始める。
集中しているように見えるリザに何が起きているのか、
話しかけてはと思うがどうしても聞かずにはいられなくなったレオが問うと、
リザはハープを奏で結界を強化しながら肩をすくめて見せた。
「私たちは元々音を操る呪文の家系です。
理性が無い状態のアキ、魔生物に音で直接指示を与えているです。
私はそういう個々の波長をつかむのがあまりうまくないですが、
こうして音の結界などを張ることに関しては姉さまよりもうまいです。
姉さまはあぁして唯一アキの波長を捉え、負担が少ないよう指示を与えることができるです。」
そこまで説明すると、リザは結界に張る音に魔力をさらにこめ始めた。
耳を塞いでという声に慌てて耳を覆うと、上空に飛ぶ魔鳥に向かって
ガラスが割れるような、
厚紙が破れる音のような、
石が割れる音のような…
金属がきしみながら割れる音のような…
そんな奇妙な音が結界と手のひら越しに僅かに聞こえた。
そしてその衝撃で地面が抉られ、外に出ているリーズの手や足に僅かな傷を作る。
一呼吸ほど曲が途絶えると、上空から落ちた魔鳥にアキラは飛び掛った。
すぐさまリーズが笛を吹くと跳ねるように飛び上がり、リーズの傍に降り立ち傍にきていた魔獣を吹き飛ばした。
「もう声は使わないです。姉さまがアキを誘導しているですので、援護をお願いするです。」
リザの言葉に解かれた結界から天族も魔族も入り乱れ飛び出す。
いままでの戦いとは違い、本能ではなく、目的を持った攻撃は舞うように軽やかに的確に当てていく。
程なくして魔生物はアキラのみとなるとメロディーが変わった。
徐々にアキラの体を覆う鱗が消え、顔が元に戻っていく。
尾も消えていくころには全身から血を流しているもののいつものアキラがその場に立っていた。
なおも続く笛にリーズの傍へと向かい、最後の節を吹き終わると糸が切れた人形のようにリーズにもたれるように倒れる。
「もう大丈夫だ。後はいつもどおり…培養液に入れておけば治る。…魔核は永久に戻らないけど。」
傷だらけのアキラを抱え、リーズは悲しげにつぶやく。
アキラの顔色は死人のように青白く出たままの翼は力なく垂れ下がっていた。
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