さすがに冬の海風は冷たく、ひとしきり走った3人は息を弾ませながら座っていたアキラのもとへともどった。
 そこに再び赤錆色をした蝙蝠が飛んでくるとアキラに何かを投げつけ消える。
それを受け取ったアキラが何を持っているのか覗き込むと白いぬいぐるみのような物が寝息を立てていた。
「懐かしいな。ふにょ。」
「まっ魔獣?」
 アキラの声に起きたのか棒のような目はそのままにその場に浮かぶ。魔獣にしては小さなその生物であったが、気の抜けるような声で鳴かれて思わず脱力する。
一応魔生物ではあるが害は無いといわれ恐る恐る触れる。
マシュマロのような手触りで特に嫌がる様子も無い。
 
「レイナが所有していたものだが、彼女が死んで以来ずっと眠っていた。
今のはリザだが、自分で面倒を見るようにということらしい。家においておけば大丈夫だろう。」
「やわらか〜〜い。ねぇ、僕が世話してもいい?」
【ふにょ〜〜ん。】
 きらきらと目を輝かせるレオに頷き許可をする。
わ〜いとはしゃぐレオにジャックとブラッドが笑っているとくつくつと小さな笑い声が聞こえ3人は目を見開く。
 
 
 3人の視線の先でアキラは楽しげに笑っていた。
驚いていた3人だがつられて笑う。
「声を出して笑うのは初めてかもしれないな。」
 ひとしきり笑い終えると再びアキラの表情は消えてしまったが、今までとはどこか雰囲気が違う。笑うということで以前の感情を取り戻しつつあるのかもしれない。
「昔は笑顔とかだったの?」
「少しはな。レイナが死んだ後立て続けにいろいろ起きて…。
ガンと暮らしていた頃もそれに近い表情をとったころがあると以前言われたが…。
声を出して笑うのは龍として目覚めてからはなかった。」
 目覚めてからというのは嫌に引っかかる言い方であったが、今に始まったことではなく追求したらきりがないだろうと質問は胸の奥にとしまった。
 
 
 
 アキラの仕事は特に時間が決まっていないらしく、この日は昼に出るという。
「ただの会議だ。魔界の物資供給の話し合いをしなければならない。」
「へ〜。やっぱりアキラが魔王の息子だから?」
 暮らしに慣れたジャックと最近よく泊まりに来ているレオはアキラから聞き、本当に何の仕事をしているのだろうかと首をかしげる。
「一応これでも魔王代理だからな…言っていなかったか?」
 寿命がいくら長くてもこれ以上縮めないでくれと2人は思う。
「だって王位は継がないとか…。」
「父上が戻るまでの代理だ。全権を任されているが王位にはついていない。」
 時間大丈夫かといわれ、2人は慌てて準備しアキラと共に家を出た。