結界がとけ、ようやく中へと踏み込んだのはアキラやリーズが幼少期いた訓練所。
「久しぶりに来たが…随分と荒れたな。」
「あぁ。ユリシア神は一体何故この土地に結界を張ったのだろうな。」
 道案内として同行するアキラとリーズは目の前に広がる光景にため息をついた。
荒れた土地、動かぬ魔獣の屍。朽ちた建物。
以前の訓練所を知るダモスやアルはあまりの光景に目を見張る。
 200年間ほとんど手をつけられていない中、広場を覆い尽くすほどの墓標だけは手入れされていた。
 
 
 魔生物研究所だけは細部まで知っているのはアキラのみでゴークたちを引きつれ、残った3人はリーズに連れられ一つの塔へと案内された。
まるで人間界に良くある御伽噺に出てくるようなそんな古い塔。
「ここがあいつの寝床だった塔だ。あれから200年か…懐かしいな…。」
 私は特に用はないから別の場所に行くけど、とリーズと別れ3人は塔を見上げた。
「ここが…アキラが5年間暮らしていた場所…。」
「入ってみるか。」
 一階はなく、ただあるのは細い階段のみ。手を壁につこうとしたレオは慌てて手を引っ込める。
短く呪文を唱え、青白い光で壁を照らすとほほ一面蒼く発光した。
「レオ、これって…」
「間違いないよ…。すっごく古いけど…一面血がついているよ…。」
 小さな手形のものもあり、特にまだ小さい妹がいるブラッドは眉を寄せ小さな手形に手をそえた。
 
 階段が繋ぐ最上階は明り取り用の窓と小さな机、粗末な寝台から伸びる首輪のついた鎖だけ。
「酷い…。なんでこんな部屋に…。」
 レオはその鎖を手に取ると指でなぞる。その途端光が溢れ、3人は目を覆う間もなく目の前が白く塗りつぶされてしまった。
 
 
 急にどこかに倒れる衝撃が起こり、3人は思わず悲鳴を上げる。
「いった〜〜〜。ココどこ?」
 レオは薄明かりに目を細め、辺りを見回す。
自分達が座り込んでいるのは石でできた硬い床のようだ。
ジャックとブラッドもお互いを確かめ辺りを見回す。
 
「誰?」
 一際闇に包まれた場所から声が聞こえ、3人は顔を見合わせた。
子供の声だが、どこか聞き覚えのある高めの声…。
「アキラ?」
「僕の部屋なんだから当たり前だろ?それよりあなた達は誰。」
 じゃらりと音がし薄明かりの中碧い瞳が3人を警戒するように見つめる。
鎖のような音がするにつれ黒い髪の小さな少年が姿を表した。若い姿ではあるが間違いなくアキラだ。
「アキラが若い…。」
 訝しげに自分達を見るアキラにブラッドとジャックは顔を見合わせつぶやく。
明らかに自分達よりももっと年下にしか見えない。
「若い?あぁ、そうか。未来からココに。なるほど。未来では僕は天界に住んでいるのか。ちょっとまって今そっちに行く。」
 何かを納得したように目を伏せ頷く。
なら記憶には残らないなとつぶやくと再びじゃらりと音を響かせ3人のいる場所へと近づいた。