第4節「儀式」

 終戦から200年。ついに天界、魔界の和平が結ばれた。
数日後、太古の昔に執り行われていたという記述に従い、天王と魔王の誓いの儀が神官立会いの下執り行われるという。
「すごいね!ジャック、ブラッド。僕たちすっごい歴史的瞬間に立ち会えるんだよ!!」
 しかも特別席で!と興奮するレオは、疲れた様子で適当に相槌を打ちジャックに朝から何度も言う。
「わかってるよ。もう何回それ言ってるんだよ…。」
「でもレオほど騒ぐわけじゃあないけど、いつか教科書に載るんじゃないかと思うと…すっげぇーって思うなぁ。」
どうせ魔界で行われるんだからこっちに泊まればいい、というアキラの誘いで魔界の首都、アカンサの中央に位置する魔王城、ヴァイスレパに3人は泊まっていたのだ。
 
 魔界の町は人間界の和と中華を合わせた様なそんな建物が並び、歩く人々は和服に似た衣装を身にまとっていた。
中にはローブ姿の人もいたが天界にあるものより裾や袖が長い。
城を出て町の店へと行くと多くの食材が並んでいた。
見覚えのある食材のほとんどは天界からの輸入のようだが、見たことのない食材に3人は驚かされる。
 
 
「これ…魔生物のだよねぇ・・・。」
「うん…魔魚、魔獣、魔鳥…うわ!これなんて魔植物だぜ?」
 ずらりと並べられているのはあの危険な魔生物達からとれた肉や果実。
ぎょっとしている3人に店主は気がついたのか傍へとやってきた。
「天族の子達だね。驚いたろ、あっちこっちで大暴れしている魔生物の肉とか売ってて。
ここじゃあかなり一般的な食材なんだけどな。なんせ大昔からあんまり作物も取れないって言うんでまともな家畜がそだちゃあしねぇんだ。」
「そこで生み出されたのが魔生物だ。フランク一族のみがその技術を開発することに成功し、同時に制御する術を編み出した。
以来フランク一族が魔生物飼育研究を行い、生み出された魔生物から食材を採取し、今に至るというわけだ。」
 3人の背後から聞こえる静かな声に店主が気軽に声をかける。
魔界では勾玉を外しているため、黒い髪に戻っているアキラは久しぶりと返事を返した。
「アキラ様、儀式用のなら明日届けるよ。それよりどうだい?」
「なにがだ?」
 ダモスがよく出歩いているおかげか、様はつけているものの砕けた言葉で会話していることは天界では見ない光景だったため、来た当初は驚いてしまったのだが今ではもうなれている。
食材を前に何かを考えているアキラは問われ、無表情ながら顔を上げる。
 
「何がって、そりゃぁし・ん・こ・ん生活だよ。なんせあのリーズ様のことだ、強引に押し倒されたりしているんじゃないのか?」
 何を言い出すのかと、咽る3人にわはっはっは、と笑う店主。
言われた本人は黙って食材を選ぶ。
「えぇっと…そうだ、おじさん。なんでリーズさんのことをリーズ様ってよぶんですか?」
「ん?あぁ、リーズ様は魔界に2人しかいない神官だからさ。魔界じゃあ神官はダモス様よりも高いくらいにあるのさ。」
 あのリーズが神官…と3人は思い浮かべるがまったくもってしっくりこない。
それどころか、笑ってしまいそうになってしまった。
3人の様子に彼女の夫は確かに想像し難いなと、同意する。
「以前言ったと思うが信仰深い種族だからだ。そのため神に仕えるものはかなり位が高くなるということだ。それより…リーの力ぐらいじゃ俺は倒れないが…何か別の意味だったか?」
 先ほどの店主の言葉に首をかしげるアキラだが、言った本人は笑うばかりで答えない。
答えは得られそうにないと判断したのか、今度は3人を見る。
「えぇ!?僕たちに聞かないでよ!」
「そうだよ!」
「リーズさんに聞けば…って本人に聞いたりでもしたら…。グラントとか聞いてないの!?」
 中にいる魂の人に聞けば早いじゃないかと、ブラッドがいうと聞けないという返事が返ってきた。
「グラントならとっくに封印されていた実体に戻ってリザと籍を入れた。…本人から聞いていなかったか?」
 魔界に来てすぐのことだぞ、というアキラに3人は首を横に振る。
「聞いてないって!じゃあアキラがあの培養液に浸かっている時いたのは…。」
 ジャックの言葉にアキラは頷く。
 その日、夜の町にリーズの怒鳴り声とからかった店主の悲鳴が尾を引いていた。