「アキラ、何かしたいことは?」
 何か、残された時間だけでも出来ることはないかと、ジャック達はせめてもの思い出作りをさせようと声をかける。
「今の季節なら…山は?」
「歩けないならおれがおぶるよ!」
 アキラはその誘いに首を横に振る。
 
 
「いや…。すまないな。何度も誘いを断ってしまって。あぁ、でもジャック。
いい知らせがある。」
 天界の自宅で休むアキラは起き上がると3人について来るよう言い、
リーズが運転する青いエアカーへと乗りこんだ。
もう赤いアキラのエアカーは運転できるものがいないのだ。
 
 向かう先はレオの実家、ミラス病院だった。
まさかという思いと、どう接したらいいのだろうと緊張するジャックにつられるようにして、レオとブラッドまでもが緊張する。
中には入らず、そのまま隣接するレオの実家へと向かうとそこにはレオの父、キンファーレやレイルッドが群青色の髪をした男性と談笑していた。
足音に気がついたのか、その男性は振り返る。
 
「親父、ありがとうな。」
 思わず足がすくんだしまったジャック達が垣根に隠れていたせいか、
ガンはアキラに礼を述べる。
親父じゃないだろうがというアキラにガンは笑う。
「ガン、起きてていいのか?」
「おう!親父が死に掛けていく代わりに俺が元気になってるよ。」
 ハハハと笑う声が聞こえ、まったくだとため息をつくレイルッドの声が3人のもとへと聞こえた。
ふと、そこへやってくる足跡が聞こえジャックが戸惑うなか、
ガン自らやってくると息子の頭に手を置いた。
「ジャック、大きくなったな。」
 ほとんど身長の変わらないガンは息子の成長を微笑みながら確かめる。
「父さん…?」
「長い間一人にさせてごめんな。もうこれからはずっと一緒…
というわけにはもう大きくなったからな。でもお前が独り立ちするまで、よろしく。」
 生きているとは思わなかった分、ジャックは初めての家族のぬくもりに小さい子供のように、ガンに縋りつき思うがままに涙を流した。
 
 
「キンファーレ、レイルッド。こいつが回復するまで世話を頼んですまなかったな。」
「何水臭いこといってんだよ。」
 幼馴染を助けるくらいどうってことないからよ、と笑うレイルッド。
「さっさと家に帰らないと父達が酒盛りでも始めてしまい、貴重な親子の時間がなくなるよ。」
 まぁ父の出す薬酒が飲みたいなら別に止めないけどねというキンファーレ。
「まだあの人造ってるの!?あのすさまじいあれを!?
あぁ…レオ君が成人になった時飲まされるんだろうなぁ…。」
 思い出したのか、ガンはそれだけはかんべんというと、車で待っていたリーズの元へとやってきた。
そんなにひどいか?というアキラにガンは馬鹿舌、という。
「貴女が…一応親父の配偶者だから…お袋ってことになるのかな?」
「いや…輝夜さんには直接会ったことがないからな…。
世話をしたこともないため、私はリーズでいい。お袋と呼ばれるのはかなり抵抗があるな。」
 まだ若いんだというリーズにえぇと笑う。
どういう意味だ?というリーズだが何かが倒れる音がし、振り返るガン越しに慌てる3人を見ると倒れたアキラに目を見張る。
「さすがにもう限界が近いな。」
 やれやれとため息をつくとブラッドの手を借り立ち上がる。
大丈夫?と聞くレオやガンたちに囲まれ、アキラはふっと小さな笑みを浮かべた。
「どうやら人でない俺には不釣合いなほど、いい人間関係を持ったな。ありがとう。」
 何爺臭いこといってるんだよ、
というガンに
 思っただけだ、
とアキラは事も無げに返す。