《ばっ化け物じゃ!!!!輝夜姫!!輝夜はおらんのか!!》
 飛び出てきた父親が血に濡れた顔をそのままに、輝夜を見つけるととめるよう言う。
 部屋の内部は風が渦巻き、家臣の姿はなく部屋全体に血が飛び散っていた。
《あのばけものをしずめい!お前の力ならば止められるはずじゃ!!はようせい!》
《これは…。》
 真紅に染まった瞳を見開いた小さな子供は、自分の魔力によって場所を問わず傷を負い、荒れる髪はぎょっとするほど長い。
 輝夜は全身に魔力を纏わせ少しずつ中へと入る。幾分弱まったその風は顔を白くし震えるアキラが限界なのだと物語っていた。


「あんな魔力…子供が持つものじゃあない!」
 みていたキフィーはダモスを振り返る。
遠くのあの村からも空に上る赤い風が見えたという言葉に信じられないと首を振る。
アキラはまだ魔族と天族の混血児だった。人外と区別される魔人ではない…。
「だけど…あんな力…。過剰放出で死んじゃ……。」
 思わずつぶやくレオだったが、まさかと顔を上げダモスと目が合いそうかもしれないという。
そんな中、ジャックは言葉を失う。
自分の母親の父…曽祖父がこんな人物であり、そして自分の父親と自分を養い見守ってくれるアキラの人生を狂わせた本人であると…。
だがそれをアキラは一度も言ったこともないし、逆に今までの学費や父親の治療費などを全て払ってくれている。おまけに後継人として自分の面倒まで見てくれている…。

「ジャック君だったよね?リチャードから簡単にだけど聞いているよ。
気にしなくてもいい。輝夜姫とゼフィー殿にはずいぶん世話になったようだし、
それに私の父も非道なことをしていた。先祖を変えることはできないが、自分に罪意識を持つことはない。」
0  だからそう男子たるもの泣くなよと、ダモスに微笑みかけられ以前見たアキラの笑顔が重なる。


《あきら、あきら。落ち着いて。》
自分達がアキラと呼ぶのとは少し違うアクセントで呼ぶ輝夜に虚空を見つめていたアキラが視線を戻した。髪は短くなり、純白の見慣れた色へ色を失う。
真紅の瞳は静かな碧へと戻り溢れていた魔力が収まった。
輝夜は着物が汚れるのもかまわず抱きしめる。
もう大丈夫とやさしく声をかけ宥めると小さく、お母さんと呟きアキラは糸が切れた人形のように体の力を抜き、気を失った。
 それを見計らったように部屋へと入ってきた家来が輝夜からアキラを取り上げ動かない体を縛り付ける。
《お父様、そのお子は怪我をしております!》
《妖かしじゃぞ!!座敷牢につないでおけ!!》
 正気とは思えない眼で縋りつく娘を払いのけ、きつく縛り上げられ猿ぐつわを噛ませると座敷牢につないでおけと命じる。
なおもとめる輝夜を部屋に連れて行けと命じ、父親は奥へと消えていった。