部屋の窓から空を眺め悲しみ何度も謝る輝夜に声がかかった。
曇っていたその表情がまるで暗闇に見つけた光を見るように明るくなり微笑む。
木陰から見えるのは青い空色の癖の強い髪が特徴的な男性が見上げていた。
 間違うはずもない。
ジャックの祖父、ゼフィー=マルスだ。好青年という印象の彼はいつもと違う彼女の様子に気が付いたのか、やさしく問う。
 悲しげに縋る様にこれまでのことを説明する。

ふつりと一度暗転し、再び現れたのは紅蓮の炎だった。
《輝夜!!》
逃げ惑う屋敷のものたちを掻き分け、燃える廊下を向かおうとする彼女を引き止める。
《ゼフィーさん!!どうしましょう…あの奥に…あのお子が!!》
 火の手がどこから上がったのかはわからないが、玄関の方面はまだ回りきっていないところをみると、その奥の辺りから出火したのかもしれない。
 
 
「後になってからわかったのだが、アキラの放ったあの揺れに明かりが倒れ燃え広がったようだった。それはあの子自身が自分の責任だと…言っても聞かない。」
「けどっ!そんなの違う!!」
 アキラは悪くないというブラッドにそういう子だからと、悲しげにダモスは俯いた。

 混乱する輝夜をなだめるため自分が助けに行くと約束を交わし、外へと避難する。
《あの奥の間でいいんだね。わかった。輝夜はここで待っていてくれ……あれは…。》
 自分のせいだと泣き崩れる輝夜に待っているよう言うと水呪文を体にまとい、中へと向かう。
その途中、髪を隠した女性を残し、男が黒い髪を翻し中へと入ってくるのが見えた。


《マリア、ここで待っていてくれ。あの子の魔力をかすかに感じる…。まだあの子は生きているんだ!》
《えぇ…。ダン、アキラを…。》
 わかっているといい、長い三つ編みを翻し中へと入っていく。
《やはり…捕らわれている子はあんたの子か…。》
不意に聞こえた声に記憶のダモスは振り返った。
《天族か…。息子を知っているのか?》
《いや。ここに住んでいる人から聞いただけだ。不思議な力を使う赤眼の黒い髪をした子とくればあんたの一族のほかいないだろ。》


「眼は碧しかしらなかった。本来変わることのない瞳の色はあの子の魔力に反映される。破壊を望めば赤。再生を望めば碧。」
「破壊と再生…もしやあの子の…アキラの力と関係が!?」
 破壊と再生…そう聞いたゴークは再生の力を使うものは確かに蒼い目のほうが適合していたというと、ダモスも色は違えど同じだと頷く。
「あの子…アキラは生まれたときから2つの力を所有するものとして選ばれていた…
そう思うしかない。生まれたときから死ぬと運命付けられていたのだ。
2つの巨大な力は人の手には余る。」

 慎重に進みつつ時折話をする2人は頑丈に作られた屋敷には不釣合いの戸の目の前まで来た。
退路は既にない。
ここもいつ天井が落ちてもおかしくはないが、幸い2階はなく何とか柱が耐えている。
隙間から見えるのは炎に囲まれ動かない小さな姿。
ゼフィーはとっさに辺りを見回すと一対の白と黒の刀を見つけ手に取る。
崩れないよう両手の得物を使い、戸を切り開くと中へと入る。
背後の炎と周辺の炎に自分の魔力をまとわせ、操るダモスと鎖を断ち切り抱えるゼフィー。
壁をダモスが蹴破り脱出するとほぼ同じくして屋敷は轟音と共に崩れ落ちた。