外へと出るとゼフィーはそっとダモスに小さな体を渡す。
黒くすすけた鎖が柱と繋いでいた先は頼りないほど細い首の無骨な首輪。
縄は燃え尽き足かせは炭と化かしている。
ゼフィーが空に2人に見えるよう明かりを打ち上げ、その間にダモスは着ていた上着を子にかけ足かせを外す。
もはや何色かわからない髪を隠すように顔まで覆うとそっと…感情を押し殺すように抱きしめた。


「アキラはこの時まだ小さな心臓を動かしていた。それもすぐに消えてしまったが。
火事が原因なのか、それともあの過剰な魔力の放出で既に死に向かっていたのか…わからない。私にできることはただ火から身を守るよう体を丸めたアキラを抱きしめてあげることだった。」
「ゼフィーはそれを知って治療呪文を使わんかったのか。痛みだけ戻っても意味がないと。」
 わしでもそうしていただろうとキフィーは惨い姿のアキラに泣く孫を宥める息子を見ながらつぶやいた。
ブラッドもウィルとレイルッドに宥められ、ジャックもあったばかりのアキラの父…義理の曽祖父とも言えるダモスに宥められ、はじめてみる小さな子供の惨い死にただ涙を流していた。

《アキラは…》
《誕生日おめでとう…アキラ…。》
壊れた風車を手に握らせ、ダモスはわが子をマリアには渡さず、崩れ倒れそうなマリアを半ば抱きしめるようにしてゼフィーに一礼し、その場を後にした。
《ゼフィーさん…あのお子は…。》
《大丈夫…ちゃんと…父親の腕で眠ったから…。》
そう答え、輝夜はその場に泣き崩れる。

 マリアの癒しの力によりみられるほどにまだなったアキラを抱きしめ、白い布に包み込む。
 満月の明かりの下、ダモスとマリアは小さな棺にアキラを入れ魔力が残っていないことを幾度と無く確かめ…小さな木の下に穴を掘る。
魔法でやれば簡単なことでも自らの手で掘るのは悲しみに捕らわれ飲み込まれないようにするため…。

「人間界の地へと還すこととした。天界と魔界に平和が訪れたとき、必ずどちらかに埋葬してあげると心に誓い、夜空がきれいな場所に穴を掘った。」

《いいね、マリア…。かならず…かならず戦争をとめアキラを私たちの世界へ…連れて行ってあげよう。》
《わかっているわ…。アキラ、寂しいかもしれないけど…必ず……必ず迎えに来るから…。》
思わず漏れた嗚咽に火傷の痕が残るアキラの額がぬれる。
それは流れ、目じりからまるで涙のように流れ落ちた。


記憶球から現実へと戻ると、そこには涙を流し待っていたマリアとルナの姿が目に飛び込む。
「あのあとディール神様とネル神様が現れ、アキラが生きたいと望み魔人になることを決意したと聞き私たちは承諾した。そして再び生まれたのは…龍の卵から生まれたのが今のアキラだ。」
 それ以外アキラが生きる道はなかったというダモスに言葉を失う。
誰よりも生きたいと願いえた命。
再び失うことになるという彼は怖くはないのだろうか…そうレオは思うがそれを聞く勇気はなく、ただあの時淡々と自分の死を言っていたアキラを思い出していた。
あの時のアキラはまったく表情も変わらず言っていたと思っていたが、それは間違いだったのかもしれない。
祖父を遮ってまでゴークに言っていた時、声が震えていたのは死にたくないとそう叫びたいのをこらえていたのかもしれないと、止めようとした涙が再び流れ落ちた。