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 数ヵ月後…。「リーズさん、本当に人間界に?」
 荷物をまとめ、人間界に行く準備をするリーズにレオは聞く。
 あぁ、と頷くと一人分としてはやや大目の荷物をもちジャックとガンに家の鍵を渡す。
 
 もう必要はない。
 「なに、人間界はここよりは狭いし何か連絡をくれればすぐあえる。
 こちらも何かあったらすぐ連絡するつもりだ。」
 気をつけて、と見送る一同に心配いらないよ、言う彼女はキィっと車椅子を押す。
 「それでは。ありがとうございました。」
 車椅子に座った青年は一同とは少し別の向きに向かい小さく頭を下げる。
 2人が扉をくぐるまで誰一人目をそらさず、見送った。
 
 
 アキラはどこにいるかと、僅かな希望を持ってダモスとゴークは探した。
 上空から探していた3人とリーズは不思議な草原を見つけそばにおりた。
 「これ…一面全部…」
 「4つ葉のクローバー…。」
 リーズがそのクローバーの草原へと足を踏み入れると3人は急いでダモスらに連絡を取る。
 程なくして駆けつけたダモスとマリアは一面の腰の背丈ほどある4つ葉のクローバーに目を見張った。
 「ハッピー…クローバー…。こんなにたくさん・・・。」
 ダモスはそう呟くとリーズの後を追う。
 一直線に歩いた後を疑うことなく進むとリーズがしゃがみこんでいるのが見え、
 誰かを抱えている。
 彼女はうずくまり肩を震わせていた。
 
 「アキラ…?」
 思わず足が止まり、全員が目を疑う。
 リーズが抱えていたのは灰色というよりも白い…
 そう銀色に見える長い髪をした長身細身の男性。
 その毛先は黒く鋼の色をしている。
 前髪は2房緩やかに飛び出し、顔の中ほどで毛先がねじれている。
 そしてなにより背から生えた翼は、魔族特有の蝙蝠の形に白い羽が一面に覆ったものであった。
 軽く丸めた体をまとうのは見覚えのある白いローブだったが明らかに小さい。
 まるで…体が突然大きくなってしまったように・・・。
 レオは恐る恐るその顔を覗き込む。目じりから涙が流れた後があるその顔には、
 うっすらと火傷の痕が見え、微笑みながら眠っていた。
 
 「魔人じゃ…ない・わ・・。」
 マリア驚きを含んだ言葉にダモスは天を仰ぐ。
 他に駆けつけた人もゴークも一体誰なのか分かると悲しみとよかったなという気持ちとを抱え目頭を押さえる。
 
 
 彼は“アティス”と名付けられた。
 全身の火傷の後遺症で目は見えず、体も不自由なアティスはリーズのこと以外の全ての記憶がなかったのだ。
 魔力すらもない彼はここで暮らすことはできない。
 魔力が必要不可欠なこの天界と魔界がある世界では体調を崩してしまうのだ。
 
 扉が消える間際、彼は薄い青紫色の瞳を空へと向けリーズと言葉を交わしていた。
 「悪いね…。リーは魔法が使えるのに。」
 「それはいいっていっただろアティス。風気持ちいいね。」
 そうですね、と微笑む彼は幸せだった。
 
 
 
 ーfin
 
 
 
 
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