「へぇ…。磁器の飾香炉か…。さすが鬼一族いい物持ってるね。でもどうして僕に?」
ひかえめな色合いに沈丁花の花があしらわれた香炉に目を細める。
「ジキタリス様が香を焚くからでしょう。最近は見ないですからね。」
昔はみんな焚いていたのですがと、セイはハナモモとローズに入れ替わるようにして自分のところを片付ける。昔って何年前?と聞けば300年位前ですかねと答え、扉へと向かう。
「まぁ安眠のための癖だからね。でさぁ、こっちは何?」
これ、といってどぎつい色をした箱を示す。
あら?と首をかしげるセイをみるとハナモモに窓を開けさせた。
あぁ、私からのは茶菓子なので後で頼んでください、とそれではと立ち去るセイに分かったというと外へ向かって大きく投げる。
「せいっ!」
「フィアーもまたジキタリス様のことがお好きなのですね。」
あっという間に見えなくなった箱にハナモモはため息をつく。
急いで窓を閉めると振り返り・・・固まった。
「このっ…仕事の邪魔になるのと、ここは各隊長および副将と僕以外は、
呼びつけない限り立ち入り禁止だってっ…毎年毎年言っているだろう…っ!
離れて・・・くれないっ?」
「ジキタリス様ぁぁぁんvv。あたしぃんのプ・レ・ゼ・ン・トv
どうして受け取ってくれないのぅ?」
手すら触れたくないのか、結界をはり押さえるローズに迫る女…性。
まごうことなく女性のはずだ。
口紅を塗った間からは鋭い牙が覗き、ギラリと光る紫色の目の周りには独特のメイクがされた影一族の女戦士、フィアーの姿があった。
普段はおとなしいのだが、こういった贈り物が出来る行事となると手に負えない。
光の結界を越えることは出来ないはずなのだが少しでも結界の薄いところを探りうごめく影というか触手が正直気持ち悪い。
「ハナモモ!ちょっと…手伝って…大体あの箱の中身は…薬でしょうが…」
「やだぁ〜ん。薬じゃなくて…媚薬入りのクッキーよぉーん。」
「生粋のインキュバスでも嬉しくないよそれは…っ。げっ。」
結果ごと押され、気がつけば本棚にぶつかる。
ハナモモが慌てて引き離そうとするが、
こういうときだけは絶対に動かないというのがこの女性の特技だ。
追い詰められ、どうした物かと考えるローズだが、なるだけ一応女性という分類にはいる物には手荒な真似はしたくないなぁとため息をつく。
不意に素肌を虫が這うような感触がし、フィアーを思いっきり跳ね飛ばす。
こいつは女じゃないと自分に唱えつつローズは無表情でフィアーを光魔法で縛り上げる。
「あらぁ〜ん。ジキタリス様ったら初心なお・か・たvそれにしてもお肌すべすべ羨ましいわぁん。それにしても、こんなにきつく縛るなんて、SMプレ…」
縛られてなお、触手を外へと出そうとするフィアーはそのまま身をもくねらせる。
言葉を最後まで続ける前に思いっきり外へと投げ出したローズだが、
その表情はまったく持って読めない。
さすがのハナモモも恐ろしくて声をかけれずおずおずと自分の机に座りスケジュールに目を通す。
一つしか出だしていない尾はだらりと下がっている。
「あ、そうだ。セイには後で届けるとして…バレンタイン本来の意味とは違うけど…
ハナモモ、いつもご苦労様。」
気持ちを切り替えたローズは、そうだというとハナモモに小包を渡す。
目をしばたかせるハナモモだが、ふわりと3つの尾が揺れた。
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