嫌々ながらに参加することになってしまったティートはせめて、
と新しい術印を編み出した。
高い魔力をもった者、冥・闇の属性をもった者に効くよう光の疑似魔法を生み出したのだ。
常人では扱えない光魔法のため、解析はまだ完了していない上に
実際の魔法と比べることのできない魔法。
その効果により近い疑似魔法だと高い評価が集まっていた。
「先生の生み出した疑似魔法…。
魔力のない人でも魔法が使えるようになる魔道具は本当に便利ですね。
まだ解明すらされていない光魔法も編み出してしまうなんて…
先生は本当に天才です!」
そう語るのはティートの助手を務める男だ。
紫色の髪を振りながら興奮気味に話す助手にティートは苦笑いを浮かべる。
「お前さんに言われてもねぇ…。この世でたぶん…ただ一人だけだぞ。
精霊の言葉が理解できる人間は。」
「いや〜。うちの息子がこの前精霊と話してましたからそのうちもっと増えますって。
あ、でも娘は魔法からっきしで、精霊も見えないし…。
唯一かみさんに似たのか踊りがうまくって。」
ははっは、と笑う助手にティートは軽く笑う。
賢者や聖職者達ですら姿を見るのがやっとの精霊。
ましてや声を聞いて会話できるのはおそらく世界中探してもこの男ぐらいだろう。
そして今回の光魔法はこの有能な助手がいなければ完成できなかったかもしれない。
どこかいつもずれていく助手なために自力で大発明はできないが、
ティートの知識と彼の才能。
その二つが合わさると世紀の大発明が生まれる。
そんな二人はさておき、ティートより先に兵器開発に着手し、生み出していた男、
ケルピーは手に持っていたフラスコを壁に投げつけていた。
数名いた助手たちは恐れて別の研究所に避難し、
一人残されたケルピーはあの光疑似魔法で話題をさらったティートの記事を破き壁に投げつける。
いつもいつもこうだ。あとから出てきてそして名声を欲しいがままにしていく。
いつだって自分の発明は2番目の評価。
せっかく生み出した宙を舞う魔物用の結界呪札。
以前からあるのは侵入させないものだったが、
今度のは魔力に反応し自動的に攻撃を仕掛けるという攻防一体化の結界だった。
膨大な呪文と威力をあげるための陣が必要なのをたったの2枚に収め、
必要な魔力も今まではっていた結界となんら変わらない。
非常に優れたものだったのにもかかわらず、それを発表した翌日、
ティートはすべての関心を奪っていった。
今度こそ、勝てると思った。
なのに…結果は。
「ティートばかり!!あやつは一人で開発などしない!
あの助手がいなければ奴は発明できないのに!!!」
自分が血の滲むような努力で得たものを、涼しげな顔でもっていく。
あれはいつだったか。
海岸でとれるという貴重な海鳴石という、海の結晶ともいうべき鉱石の採掘の時だ。
非常に強い力をもった鉱石は魔力を与えるとさざ波のような音を立て、
濁った水に入れればあっという間に浄化するという代物だった。
特に寒い季節の深海にしか存在せず、研究開発のために助手とともに凍えながら採取していた。
それを…あの男は。
同じ効力のある石の開発に成功し、海水から生み出す技術を編み出した。
だがそれはティート一人の力ではない。助手が精霊から海鳴石の生まれる条件を聞き、
それをもとに編み出したのだ。
ただ助手はいつもそのヒントを生かせず、
師として慕っているティートに相談しなければ自力で開発することができない。
おかげで何度か潜った末に生み出した採取用の技術は無駄になってしまった。
あれほど苦労してようやく編み出した技術を…。
天才なのは認める。だが、この憎さだけはどうしようもない。
ふと、ケルピー博士はうっすらと笑った。そうだ。お祝いをあげなくては。
とびっきりの生涯忘れることのないものを。
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