違反者のつるし上げも終わり、例の天族からの攻撃はわずかなもので、
1軍と四天王長により瞬く間に解決した。
 一部の噂ではどうやら1軍の誰かがけがを負ったという話だが、報告書には記載はない。
 所詮は噂か、と情報をまとめていたキルは巻物を丸めて棚にしまう。
「そうじゃ。キル殿、最近剣の動きがさらに磨かれておるのぅ。
 切り口が洗練されておる。」
 先日暗殺した魔物についての報告書を丸めていたタマモの言葉に、キルは目を瞬かせた。
そういえば最近あまり力を込めずにも、急所を一突きで完遂できる。
というか、相手が抵抗する前にすんなり終わらせられる。
「どこかで鍛錬したのかの?」
「いえ…別に…。」
 首をかしげるタマモにキルは口を濁した。
思い当たるのはあの四天王長に戦いを挑んでいること。
 毎回毎回注意ばかりされてムカついていたが、自分を指南しているつもりなのかもしれない。
 
 
 片付けを終え、城にやってきたキルは少し落ち着いて様子を見てみるか、
と鍛錬所に足を運んできた。
いつも月の半ばに鍛錬所にいるのはどうやら日課のようでいない日はない。
「あれ?」
 ん?と首をかしげるキルは鍛錬所を見回す。
いつも奥で魔法を練る練習をしているのだが、今日はその姿がない。
ふと気配を感じ、隅に目を向ける。
 壁にもたれる銀色の髪は剣を抱え込むようにして座り込んでいた。
おまけに軍服だったりラフな私服だったりするのに対し、
今日は薄いどこか寝間着に見える服装をしている。
「今日はまた早いねぇ。2軍は情報処理終わったのかな?」
 キルに気がついたらしく、立ち上がったジキタリスは少し暗い部屋で
顔が隠れながらもいつも通りの口調でキルを挑発する。
「えぇ。どちらかというと1軍からの報告書のほうが遅く感じましたよ。」
 むっとするキルはそう言い返すと鼻先で笑う音が聞こえた。
「残念ながら1軍は忙しいからね。
 2軍でさばききれない巻き物も来るから忙しいんだ。」
 軽く溜息のように息を吐くジキタリスは嗤う様に続けると、
どちらからともなく前に飛び出し剣を交える。
 
 
 なんだろう?この違和感。
キルは剣を交えながら首をかしげた。
剣を交えていて今日感じるのはいつものような繊細な動きではないこと。
それでも自分よりも技術が優れているが。
 
「どうしたの?まだ剣に無駄な力が入っているせいで動き鈍いんじゃない?」
 そういうジキタリスだが、挑発に乗らず、冷静にキルは分析する。
どこか息が荒く、やや剣が重そうに見える。
 鍛錬所内はあまり明るくないが、明りに一瞬照らされた顔色にキルは驚いた。
もともと色白だが、今日はほとんど白い。
それでいてややうつろに見える目だけはらんらんとしているように見える。
 
 一度間合いを開けるキルだが、はっと前に飛び出した。
崩れるように倒れるジキタリスを抱きとめ、思わず座り込む。
「どう…だっ大丈夫ですか!?こんなに体が…」
 意識を飛ばしているらしいジキタリスはぐったりとしたままだが、異様に熱い。
とりあえず凍てつく炎を手のひらに出し、そっと頬を撫でる。
 一向に下がらない熱に抱きかかえると、キルは自分の体を化身化させ、
鬼火となってジキタリスをも包み込む。