「そっそういえばフローラ…様の他に四天王の方がいらっしゃっていると聞いたんですけど…。」
 いきなり城に呼び出されたことに少しは疑問を感じているかと、ローズは聞く。
フローラの事を様付けて呼ぶのは彼にとってははっきり嫌な事だが、呼び捨てもおかしいと敬称をつけ、口直しのようにお茶を一口飲んだ。
 
 
「…ん?あぁ、チューベローズか。…さぁ?それより、町を探索しないか?まぁあまり詳しくはないので道案内…と言うわけには行かないが…。」
 
にっこりと微笑むロードクロサイトにローズは見えない刃にざっくりと斬られ、言葉の吹き矢が突き刺さる。
(さぁって何!?さぁって!!しかもそれよりって流された!?フローラに頼んでキルでも呼んでおけばよかったかも…。)
 そうすれば多分ツッコミ役となってくれていただろう…。
飲み込んだ紅茶に軽く咽、返事を待つロードクロサイトを見る。
 
いっそのこと自分だってばらして…いや。多分信じないか嫌われるか…きつい仕置きが飛んでくるか…。
「いえ、そんな…。魔王様は今勇者一向の様子を窺っているとフローラ…様から窺いましたからお忙しいのではないでしょうか?」
「そのことなら大丈夫。まだしばらくはこの町に滞在すると聞いているし、そこまで気を張らなくてもいい相手だらけだからむしろ暇なくらいだ。それと、ここではロードクロサイトと呼んで欲しい。私は…ローズとよんでもかまわないかな?そのほうが呼びやすい。」
 毎日呼んでいるのでどうぞその名で呼んでくださいと、ローズは内心毒づく。
それにしても何故こうまで気付いてくれないのか…ローズは大きく…
心の奥から外に漏れてしまうのではないかと思うほど大きな溜息を心の中で吐き出した。
悲しくなるが、天然は今に始まったことではない。
 
兎にも角にも・・今日1日。
 
誤魔化して誤魔化して・・・。
逃げ延びねばと心に誓った。
 
 
 町を探索しつつ、せめてもの復讐にロードクロサイトが避けたい人物達に出会うことで憂さを晴らそうと、意図的に足を向ける。
 ロードクロサイトと違って方向音痴ではないため、苦手とする勇者パーティーの人がいる方向へと上手い具合に行きたい場所をそれとなく言い連れて行く。
「あれ?ロードクロサイトさん、ローズさんは今日はどうしたんですか?」
「ローズは用事があるとかで。あ、この女性は路地で知り合ったローズバードで…見てのとおり同族です。」
 チャーリーとベルフェゴに遭遇し、一瞬ロードクロサイトの顔に不快気な様子が表されたがすぐさまいつもの顔に戻る。
(…なんだよ。何みてんのさ。)
 チャーリーの陰から見えるベルフェゴと目があってしまい、ローズはばれない程度に睨みつける。
 
「そのパンくれ。」
 突拍子もない言葉にローズ、ロードクロサイトとチャーリーは首をかしげる。
パンどころか何も手には持っていない。
しかし、どうみてもデブ…ベルフェゴはローズを見ていて…。
普段あまり動いたところを見たことのないが、ベルフェゴがゆっくり動き出す。
「これ。隠してないでくれ。」
 次の瞬間、驚きやら何やらが混じった叫びと共にローズは渾身の蹴りを繰り出し、ベルフェゴは吹っ飛んだ。
「すっすみません!」
 チャーリーは走り去ってしまったローズの代わりにロードクロサイトに何度も謝り、吹っ飛んだベルフェゴへと向かう。
残されたロードクロサイトは大きくため息をつくとローズの走り去った方向へと向かった。