「その彼女ならその角を曲がっていったわ。それにしても…本当に見ていて飽きないわね…。」
 途中ネティベルに出会い、道を聞くと彼女はすぐさま返事を返す。
急いで後を追っていたために後半部分を聞きそびれていた。
「長髪の女性?…広間の方に行った。本当に…哀れな奴だな。」
偶然エリーに出会い、再び聞けばにぎわっている広間を示す。
そして後半に呟かれた言葉は再び届くことなく、軽い溜息と共に消え去った。
 
 
「フローラさんに言われてきてみたら…それでもMですか。師匠。」
「…はぁ…。性格変わりそう…。最近魔王様にさ、飛びついてないし抱きついてないし。大体人間界には僕のトラウマ多い!!」
 広間から少し離れた空き家でローズは側にあったクッションをこれでもかと八つ当たりする。
 
 その様子にため息をつくキルはどうしたものかと頭を悩ませていた。
「大体、母さんに比べたら小さい胸なんですから一日気にしなければどうってことはないんじゃないです?それとも今現在気にしているのは魔王様に害を及ぼす事ができないからか?」
 それはそれでいいというキル。
「あのさ…キルの母親と比べないでよ。女性苦手な僕でさえ思わずガン見しちゃったほどなんだしさ…。大体、なんでこういう姿になった時だけこう…ラインが綺麗にできんの!?あ〜もう!!!っていうかさ、なんで…あんなのを引き取ったのか…。鬼一族って慈悲深かったっけ?」
 ついにはクッションを破き、ようやく落ち着く。
 
「母さんだけが特別です。でなければあんな屑は番犬の餌になるのが関の山。」
 思い出したくもないのかキルは苦々しげに答える。
「…そういえば魔王様は…」
「笑顔で玉砕されました。と言うのも母さんはそこらへんかなり鈍感ですから。もっとも鈍いというか…」
「まぁ…あんなの拾うぐらいだし…お嬢様育ちだから…ね…。」
 キルの母親は鬼一族の長の姫。
飛びぬけて美人で優しく、まるで聖母のような…。
そしてなによりそのスタイルのよさとしっとりとした黒い髪。
額から突き出た2本の白銀の角。
故に箱入り娘として育てられ、常識を知らず慈悲で持って迎えた夫に誰もが反対をした…魔界でも有名な女性。
そして雲泥の差である夫は現在家宝をもち行方知れず。
優しさゆえか未だに帰りを待っているという彼女のため…
キルは長年…抹消するために探している。
 
「さて…あまり時間がないので帰りますが…。魔王様にくれぐれも変なことしないように。」
「って!どっちかっていうと僕のほうが危ないんだけど!?」
 そのまま立ち去ろうとする弟子にローズはすがりつく。
だが日頃が悪いのか、すがりつかれたキルから殺気が放たれる。
「師匠、キモイ。」
「…今どんだけ僕がへこんでると思ってんのさ〜〜!!!これでもナイーブな神経なんだからもう少し扱い変えてくれないの!?」
「ナイーブ…ですか?盗撮・盗聴・覗き・猥褻行為……とさまざまな経緯がありますが、それを行うのがナイーブな神経の持ち主ですか。なるほど……いっぺん地獄門にでも落ちろ変態が。」
 般若が見えるのではと思うほどの殺気にローズは脱力する。
鬼にも情けと言う言葉ぐらい…と嘆くが生憎暗殺をも担当する鬼の子キルには届かない。
 脱力しきっているローズをそのままにキルはさっさと引き上げていった。