「あぁ、ここにいたのか。ローズ。」
 ひとまず広間へと戻ると探していたであろうロードクロサイトがいた。
今日一日の事で疲れきったローズと共に宿へと戻る。
ついいつものくせで普通についてきてしまったが、このままではばれるのも時間の問題…。
(魔王様って…自分に向けられている人の気持ちには鈍感なくせに…いやむしろ天然な反応のくせに…さっさと外にでも出て…日がくれるのを待とう…。)
 水を取りに行ったロードクロサイトが帰る前にと窓から外を窺う。
多少人はいるが…まぁ音を立てなければ平気だろう。
 
 
【べちっ】
「にゃひゃ〜〜!!!!」
 外を眺め考え事をしていた彼の頬にキンキンに冷えたコップが押し付けられ、素っ頓狂な叫び声をあげる。
 
コップを持っていたロードクロサイトは悪戯が成功したように笑っていた。
が、驚いたローズには…右こめかみに青筋がたち彼の纏うオーラが限りなく黒い事までは気が付かない。
おまけに引き倒され、ローズは顔を引きつらせた。
 
「一つ質問があるが…ローズ。3秒以内にどういう事か…説明できるかな?ジキタリス=チューベローズ」
 ようやくロードクロサイトの纏うオーラがどの部類なのかを理解したローズはどう説明したらいいのかを必死で考える。
大体、引き倒されたおかげで顔が近く思考がまとまらない。
「1…2…さ」
「あ、朝起きたらこうなってました!!!まじです!本気です!一番自分が驚きました!!」
 自分は悪くないという事をアピールするため、わたわたと手足を動かしつつ叫ぶ。
「決して魔…ロードクロサイト様を騙すとかそういうことじゃなくて…あ、あと女性願望なんてさらさらないです!僕は女性に興味ないですし!!」
 必死に女装癖はないなどいうと何かに納得した顔になる。
 
「…あぁ、エイプリールか。てっきり実は…かと思った。」
 ようやく助け起こされ、案の定な答えにローズはもはや無反応だ。
「(やっぱり…)どうにも戻らなさそうなので…ロードクロサイト様にばれたりでもしたら…護衛できなくなるかな〜とか…そう思いまして…。」
 まさかばれたら自分の想いが届かなくなるなどとは答えられない。
普通ならば性別が違う事でチャンスと喜ぶべき場所なのだろうが…。
「…ローズ、言い難いが…この手の呪いは一生…。」
 あはははと空笑うローズにロードクロサイトは深刻な表情になり…いいにくそうにずばりと言う。
一瞬ローズの思考が止まり、その場で石化する。