そしてさらに一か月が経ち、父が帰ってくるとソーズマンは笑顔ででむかえようとして父の機嫌が悪いことに足を止めた。
「まったく…勇者だとわかった途端掌返しか。今更になって…自分で息子を捨てておいて勇者だという事だけで拾いに行くだと。後悔しているだと?ふざけるのもほどほどにしろ!!」
 水を飲んだコップを机にたたきつけ、怒鳴る父に母は静かに息を吐いた。
「あの子がどんな子か…知らないはずもないだろうに!」
 なんて愚かな、という父に母は寄り添う。 
「あの子を山に捨てたと聞いたときすぐあなたに知らせればよかったわね…。ごめんなさい。」
「いや…。わかっている。私がいたところで何も変わらない。あんなに痩せるまで何もできなかった自分が歯がゆい。」
 うなだれる母の手を取り、大きく息を吐く父は様子を見てくる、と家を出る。
 
 勇者って何なのか、あの子って誰なのか…捨てるってどういうことなのか…。
どうしようもない恐怖に駆られ、ソーズマンは飛び出すと母にしがみついた。
「あら…どうしたの?」
「あの子…あの白い子…大丈夫なの?」
 震える手に母は目の高さを合わせると覗き込むように息子の顔を見る。
息子の言葉に一度だけ見たことがあるのを思い出す母は、大丈夫よ、と声をかけた。
「ソーズマン。先に伝えておくわね。ソーズマン、次の春からお父さんに剣を教わるって約束よね。きっとその時また会えるわ。」
 元気よ、という母の言葉にソーズマンは目を丸くする。父はいつもは剣術を町で教えている。
魔物が出やすい村を守るため、ソーズマンは父にお願いして家にいるとき教えてもらう約束をしていたのだった。
そこにあの白い子が入る。
「あの子はね…ソーズマンより一つ下なの。だけどね、すっごく重たいものを背負っているわ。だからソーズマンと一緒に練習するって。仲良くするのよ。」
「あの子…春からは一緒なの?溶けちゃわないの?」
 いいわね、という母にソーズマンは大丈夫なの?という。
ちらりと笑った母は大丈夫よ、と頷いた。