そして春…。
すっかりお化けという話はなくなり、魔物を倒すすごい人…勇者だという話が村には広まっていた。
初めての練習の時には熱があるということで休んでしまったものの、父は二本木刀を用意していたことに本当に来るんだ、と心を躍らせた。
次の日、家の裏手で剣術を習っていたのだが、そこへ白い…いや銀色の髪を持つ子供がやってきた。
目の色が青なのだが、不思議なことに青目をぐるりと黄色い線が取り囲んでいた。
「もう大丈夫か?チューベローズ。ソーズマン、こっち来い。」
素振りをしていたソーズマンを呼ぶ父は、帽子をかぶった銀色の頭を撫でている。
「チューベローズ、息子のソーズマンだ。一つ上だから仲良くしてくれ。ソーズマン、チューベローズだ。可愛い顔だが、男同士仲良くな。」
前に見たときは痩せていた頬が少しふっくらとし、ぎこちなく微笑む。
ソーズマンが素振りをしている間、剣の持ち方や素振りの方法を教わるチューベローズだが、初めて会ってから一度も声を聴いていない。
そもそも最初に顔を見た以外全然顔を合わせていない。
ふっくら…そう思っていたソーズマンだがすぐに違うと心の中で首をふった。
一歳下ということは4歳のはずだが、ときどき薬草をもらいに行くヘアリンの家の女の子よりも細いし小さい気がする。
「ソーズマン、気が散ってるぞ。ちょっとチューベローズを家で寝かせてくるから戻ってくるまで休んでいていいぞ。」
ぽん、と頭をたたかれ我に返ったソーズマンは後ろを振り仰いだ。まだ始まってそんなに経っていないが、くったりとした姿のチューベローズを抱き抱えた父の姿におどろく。
そのまま裏口から家に入ると、どこかに降ろしたのか少し間があってから父が一人で戻って来た。
「あいつ、全然挨拶しなかった。」
「お前もしてないだろうが。チューベローズはお前も知っての通り、ついこの前までいじめられていた。だからお前のことも怖くて仕方がないんだ。お前のほうが年上なんだ。気をつけてみてあげてくれ。」
むすっっとするソーズマンの頭をなでる父はいいね、という。
どこか釈然としないソーズマンだったがしぶしぶ頷いた。
少しして、戻って来たチューベローズは先ほど教えてもらったように木刀を振り、2時間ほどしてから手に包帯をまいてもらい、帰って行った。
「思った以上に体が弱いな…。」
どうしたものか、と父は唸る。ソーズマンもまた血だらけになっていた手を思い出し、ぶるりと体を震わせた。
「ソーズマン。今日みたいにあの子は休み休み教えることになるだろうが…まぁ大目に見てやってくれ。その分、みっちりお前に剣術をたたき込んでやるからな。」
頭をなでながらそう告げる父にソーズマンは頷きながらも甘やかされているチューベローズにくすぶるような感覚を覚えていた。
そして一ヶ月。
父と打ち合いをしている横で、チューベローズは体力づくりのために一人汗を流していた。
剣のほうもまぁまぁ覚えてはいるが、ずっと日陰で育ったせいか体力がないということで土台作りから、というのがソーズマンの父クレイの考えだ。
「ん?ソーズマン、少し休憩だ。」
横目でそんなチューベローズを見ていたクレイはソーズマンの剣を止めると、腕立てをしていたチューベローズのそばへと向かう。
「熱があるじゃないか。具合が悪くなったらすぐ言いなさいと言っただろう。大丈夫か?ソーズマン、戻ってくるまで休憩だ。チューベローズを送ってくる。」
少し火照った頬に触れるクレイはチューベローズを抱き上げると、そのままホスターの家へと足早に消えていった。
残されたソーズマンは乱れた息を整えながらなんて貧弱な奴、と不満を募らせた。
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