「よくぞ、ここまで来た人間よ。褒めて使わそう。だが貴様の伝説も今夜限り…。
さぁ存分にもてなそうぞ!」
威圧感たっぷりに言うと、勇者は剣を構え仲間たちに目配りする。
「魔王め!覚悟!」
12分後…彼は深いため息をついて自室へと戻っていた。
今回は魔導師の放った魔法が暴発。
もとい力量にあっていない魔法を放ったがための暴発であった。
どうやってここまで来れたのか……運だけはよかったらしい一行だったようだ。
最後の最後でその運に見放されたようだが。
「魔王め!覚悟!」
そういって意気揚々と入ってきた勇者だったが、
ロードクロサイトは何かに夢中になっていて勇者を見ようともしない。
「あれ……?」
「……取れた!」
突然立ち上がった魔王は嬉々としてなんとなく入り口を振り返る。
手には先程まで刺さっていた小さな棘。
視線の先には勇者一向。
しばしの沈黙…
「よくぞ、ここまで来た人間よ。褒めて使わそう。だが貴様の伝説も今夜限り…。
さぁ存分にもてなそうぞ。」
もはや片言の棒読み状態で魔王は言う。
それより何故言葉を変えないのかの真意は誰も知らない。
だがその棒読みの言葉に勇者達はすぐさま戦闘態勢に入った。
かれこれ魔王になってから147年。
幾度目の勇者達の攻撃は今まで以上に激しく、久しぶりに本気が出せそうだと内心心が躍る。
今まで力量を測るまでもなく消えていった勇者達に、全力どころか半分も出せなかった彼は欲求不満だったのだ。
調子に乗って立て続けに呪文を唱え、放つ。
だがそれによりあっという間に勇者以外は戦闘不能となる。
残った勇者は銀色の髪をなびかせ剣で斬りかかる。
魔王もそれに応じて剣で相手をするが、かなり強い。
そのうえ流れるかのごとく早くしなやかだ。
そして2時間後。
ようやくHPというかスタミナ切れをおこした勇者の前で、
大雑把な手当てをされたメンバーが運び出されていく。
「何故殺さない。」
剣を支えに立つ勇者の問いに若干息を切らしている魔王は振り返る。
「自分の家で死人なんて縁起が悪いだろうが。」
縁起もクソも魔王なのだから縁のない話のようだが、勇者は確かにと思う。
彼自身勇者のメンバーだったという人から剣術と此処までの道のりを聞いていたのだ。
きっとその前の前もそうやって受け継がれていたのだろうと思う。
ふと、入ったときに見た光景を思い出す。
小さな棘相手に集中していた姿…。
……全然恐れなくていいのではと、勇者は先ほどまで傍いた魔王を見上げながら思う。
疲れたと言いながら部下の魔物と談笑を交わす魔王。
来る途中戦った四天王のサキュバスも加わり、今回の戦いを話しているのか、魔王は微笑む。
それをみた銀髪の勇者はふと、何を思いついたのか疲労も忘れて立ち上がる。
その勢いの良さに魔王は驚くが、声をかけるよりも前に走って出口へと向かい消えていく……。
そしてその後の勇者は現れず、3年後…。
仕事を終えた魔王は、勇者が近くに居ると聞いているときだけ行く部屋へと足を運んだ。
別段用事はない。何か物音が聞こえたからだ。
|