結界を張るロードクロサイトの指に突然血が飛び、ロードクロサイトは眉をひそめた。
「まずいな…。ローズがキレたな。」
 手を差し替え傷を舐めると大きくため息をついた。
結界が持たないかもしれないなと、つぶやくロードクロサイトにキルもスバルナも恐れる。
魔力に特化しているロードクロサイトの結界が破れるなんて聞いたことがない。
「そういえばローズの本気、見たことがなかったか?
 ほとんど怒らないからまぁみたこともないだろうな。
 前にキレたのはキルが生まれる前だったからな。」
 たしか妹がどうとかで…と思い出すロードクロサイトにキルは目をしばたかせる。
スバルナも首を傾げかけ、思いとどまった。視界がずれてしまう。
「いっておくが、あったわけでも実際見たわけでもないぞ?
 ただ昔他のメンバーがユーチャリスがどうとか言っていたんで聞いたら、
 仲のいい兄妹だったとからしい。」
「妹がいるというのは聞きましたが、それで怒るほど仲がよかったんですね。」
 見たことはないローズのキレ方に興味が湧くが触れてはいけないもののように感じられ、つばを飲み込むと成り行きを見守った。
 
 
「本気が見たいなら…、見せてやるよ。狂気開放。魔鏡無限反射」
 きらきらとあたりが光り、一瞬にして大勢のローズがサイクロプスの周りに現れた。
「さぁ」
 「さぁ」
     「さぁ、」
「「「どれが本物か当ててごらん」」」」
 くすくすと笑うものや、声高々に笑うもの。その音にチャーリーは思わず耳を塞ぐ。
声までもが反響し、ローズたちは同時に声を上げ笑い出した。
「こしゃくな!!貴様が本物だぁ!」
 サイクロプスは棍棒を大きく凪ぐとローズの姿は揺らぎ、消えていく。
「残念。はずれ。」
 一人のローズが突然サイクロプスの背後に現れるとサイクロプスの脇からは黒い霧が吹き出た。
すぐに振り向くがそこには目を見開き、狂った瞳で笑い続ける陰の姿しかない。
 
「僕の姿は光。そのなかを僕は自由に移動することが出来る。」
「僕の姿は光。何にも捕らえることはできない光。
 さぁ、この狂気にいつまで持ちこたえられる?」
 更に数が増え、笑い声もだんだんと狂気を増していった。
再びサイクロプスが黒い霧を吹き上げる。
失った足にバランスを崩すと姿が縮まり、子供ほどの大きさとなった。
 大きさと精神が同じになったのか、
サイクロプスのような闇の集合体は逃げ出そうと必死に身体を動かし荒くほえる。
その姿に今まで暴れていたとはいえ、チャーリーの良心が痛む。
第一に黒い霧はまだ立ち上っているため、このまま放っておいても消えそうだ。
ローズも剣を納めると動きを止め、一人に戻りサイクロプスの前で立ちすくんだ。
 
「…さい。」
 小さくつぶやく声は聞こえず、ただ大波が来る前兆のように不気味な空気が結界内を包み込んだ。
「煩い五月蝿い煩いうるさい五月蝿い煩いウルサイ煩い!!!」
 踏みつけ、つかみ上げると結界の壁にたたきつける。
「汚らわしい汚い醜い汚らわしい。消えろ消えろ消えろキエロ。」
 低い声で繰り返し、殴りつけ叩きつけるを繰り返す。
その尋常でない行動にチャーリーは起き上がると背後に飛びついた。
「ローズさん、もうその敵は戦闘不能ですから!!落ち着いてください!!」
 一瞬ローズの手が止まるとサイクロプスは元の黒い霧となり、四散し消えていった。
狂気に満ちた目で振り向くローズだが、チャーリーを視界に入れると瞳に光が戻る。
今更ながらに狂気と殺気に死の恐怖を感じたチャーリーの両目からは涙がこぼれ、体が震えた。
どこかまだ夢の中にいるような表情のローズだったが、
足が震え座り込んだチャーリーを抱きしめ背を撫でる。
「ユー…ユー…ごめんね…。ごめんね…。ユーを傷つけるつもりじゃなかったんだ。
 ごめんね…。ユーチャリス、駄目な僕でごめんね…。
 怖い思いをさせちゃってごめんね…。」
 チャーリーをユーチャリスと呼び、なだめる。
結界が消え、エリーたちが駆けつけるころには
魔力の尽きたローズがチャーリーに抱えられ気絶していた。