キャシーの援護射撃がエリーに飛び掛ってきた白い毛並みの馬のような魔物を
地に落とし、エリーが止めを刺す。
その隣をポリッターの放った火球が乱れ飛び、集まっていた魔界人を燃やし尽くした。
「まったく4日間開いていると思えば…。この間のより少し手ごわいわね。」
 急いで全体回復魔法を唱えるネティベルだが、
飛んできた槍に回避行動をとると掠めた肩をすばやく治療する。
魔法薬を飲むと隕石を空から降らせ、敵後方支援を散らせた。
 
「ネティベル、回復アイテムを。」
 気力を使う技を連発していたエリーはすばやくそばによると
ネティベルから回復薬を2つもらい、すぐに戦闘へと戻る。
敵を蹴散らすジュリアンのそばへと駆け寄るとすれ違いざまに回復薬を渡した。
ジミーは中級ほどの召喚獣を立て続けに呼び出し、自分とアイアンの周辺で迎え撃つ。
さすがのアイアンも踊りでスタミナが切れてきたのか肩で息をするが、
事前に渡された回復薬を飲みネティベルにいわれたとおりジミーの歌にあわせ、
ひたすら身体を動かしていた。
 
 ウェハースがどこにいるのか蝙蝠で見渡す限りはわからず、
チャーリーは新しく生まれかわった刀を振るい次々と魔獣を切り倒していた。
そこへ突然桃色の毛並みをした犬の顔を持つ魔界人が現れると剣を振り下ろされる。
 受け止め、間近でみると犬人は見上げるほど大きく威圧感を与えていた。
なによりも剣が重く、近い色であのシィルーズを思い出す。
だが一撃の衝撃が何倍もあった。
 何かチャーリーに言うが意図的かイングリシウ語だったため内容は分からない。
それでも何かにイラついているのか怒っているのは明らかだ。
徐々に桃色の毛並みが赤く染まり、3つの尾が揺れる。
胸にバラと剣を模した紋が刺繍された黒い軍服が一瞬はなれたかと思えば
腕に走る衝撃に近くなる。
 
 なぎ払うチャーリーの刀を避けると間合いを開け尖った耳を振るわせた。
顔や手足などを見る限り犬が二足で歩いているようなほど本物とよく似ている。
唯一違うのは手が毛に覆われてはいるが人間のそれと酷似していることだ。
「人間にしてはなかなか…。
 私は魔王軍第一軍副将兼2番隊隊長フェンリル=M=ハナモモ。
 なるほど…ただの弱者ではないか。」
 流暢な人の言葉…ジャポネーゼ語を話すと間合いをつめ再びチャーリーの刀と火花を散らす。
 
 
 横からきたエリーの攻撃を避けるため離れるハナモモにチャーリーが呪文を放つと
防御する体制を取った。
「チャーリー、獣人なら魔法が効くはずよ!」
 ネティベルの声に頷くと刀でけん制しつつ呪文の準備をする。
あらかた魔物を倒したのか駆け寄ってきたジュリアンやキャシーが援護に加わると
一行は3・4人ずつ組み、一組目が終わると次が来るというように
連携の取れた攻撃をし始めた。
少数のこっているほかの魔獣などはジミーとアイアンが受け持ち、
よく見ればベルフェゴが瀕死の敵に下手な剣を振り回している。
 
 呪文と攻撃の嵐をハナモモは避けると先に魔法を使う魔道師に狙いを定め、
ポリッターに集中攻撃を仕掛けた。
それをジュリアンが護り、キャシーが遠ざける。
分が悪いと判断したハナモモは剣を口にくわえると犬の姿へと変化し、
倍以上のスピードで翻弄すると通りざまに軽く攻撃を貰いながらも、
エリーを浅く斬りつけジュリアンに砂をかける。
ネティベルの回復魔法により目隠し状態から抜け出したジュリアンだが、
間一髪で避けた攻撃がかすり腕を押さえつけた。
これでは埒が明かないと、そう判断したハナモモは犬人の姿になると懐から子袋を取り出し、
地面に投げつける。
 
 
 立ち上がる煙が晴れるとそこにはすでに姿はなく、草原にあった魔物の姿は全て四散し
戦闘のあとだけが残され何事もなかったかのように風が吹き抜けた。
「さすがにこの人数に退いたみたいね…。」
「でもあの犬の方、すっごい強かったです。まともなダメージが与えられなかったです。」
 ネティベルに治療され、包帯を巻かれたジュリアンは傷の具合を確かめ拳を握る。
「だいぶ回復薬も使ったからな…。また買い出して置いたほうがいいな。」
 空になった小瓶を振り、エリーは軽くなった布袋を見ると回復薬の数を数えた。
「とりあえず、一軍の副将が出てきたんですから4・5日様子を見てそれから
 移動しましょう。
 プリーストさんが言うにはローズさんの合図でこちらに来るそうなので
 ゆっくりしていいといっていましたし。」
 刀を振るうと刀身はすぐに綺麗になり、細かな傷が修復されていく。
神器になった天の正虎は存分にその力を発揮していた。